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歯の外傷治療と小児の歯内療法にかかわる本日の問いと仮説的推論  宮新 美智世

小児の嘔吐の防ぎ方

20211103

10月31日の東京医科歯科大学歯科同窓会講演会にて頂きましたご質問にお答えして

 

Q  小児の嘔吐反射にどのように対応しますか?

 

A  「嘔吐」というサルトルの小説は有名ですね。生きる上の違和感が表現されているとでも申しましょうか。

さて、精神医学には、心因性嘔吐(神経性嘔吐)という病態があります。嘔吐の原因となる明らかな異常がなく,心理社会的なストレスが原因で嘔吐するものを示します。不安や緊張を伴う場面で発生することが多いのに,本人は心理的ストレスを自覚していない場合もあります。また,車の中で嘔吐してから車を見ただけで嘔吐するようになるなど,特定の場所や時間に症状が出現する「条件付け」が関係している場合もあるといわれます。

嘔吐は,脳(延髄)にある嘔吐中枢や隣接するchemoreceptor trigger zone(CTZ)への刺激によって発生しますが、心理社会的なストレスを上手く処理できないと,大脳につたわり不快な感情が誘因となって嘔吐中枢を刺激します。特に子どもの中枢神経系は未成熟なので,様々な刺激によって影響を受け,身体症状が発生しやすいと言われおり,嘔吐もその一つです。したがって、歯科診療に対して強い恐怖感や嫌悪感があると、それだけで児は嘔吐することになります。

したがって、心因性嘔吐をさけるためには、歯科診療が児にとって強いストレスにならないように工夫することです。不安、嫌悪、恐怖を感じにくくなるよう、歯科診療に関するプレパレーションや理解を促す活動が、重要になります。例えばTSDをしたり、モデリングをして、少しずつ誤解を解いて、自己達成感と自信をあたえ、その児に合った無理のない低い階段を少しずつ上らせるように、理解を深めてもらうことが大切です。診療現場が怖くもなく、いやな感じがしなくなった時点では、嘔吐が生じにくくなる、と期待できます。

もう一つは、口腔内の嘔吐反射の刺激受容体が刺激されて生じる嘔吐があります。歯科医療者にはこのほうが身近に思い浮かぶでしょう。ただし、食物を食べるときには、喉の奥に当たるにもかかわらず吐き気が生じないで飲み込めるのが通常なので、この点からも嘔吐反射は心理学的な原因が強いと推察されます。中でも、口呼吸が強いひとは、水が口に溢れると息ができなくなる感覚の陥りやすく、本人が「息が出来なくなるかも」という不安を生じて、嘔吐反射が強めであるという記載があります。口呼吸は不正咬合の原因にもなるので、鼻で息ができるか、耳鼻科で検査をうけてもらい、問題がなければ訓練を鼻呼吸を意識するよう指導するのも重要です。

鏡を見せる; 鏡を見ると歯科治療についての説明が具体的に腑に落ちる上、目からの情報量が増えて、反射を阻害する可能性があります。目からの情報は、ヒトが得る情報の96%に相当する量だそうです。目をつぶらないように声をかける必要はあります。

舌に塩を乗せる;口蓋など、受容体が多い場所に触れざるを得ない場合、舌に少量の塩を乗せて、「少し塩辛いですよ」と声をかけつつ処置を終わる方法。口腔内の刺激に対して、意識が集中するのを回避することができます。

ツボ押しを応用する; 鎖骨と鎖骨の間のくぼみにある「天突(てんとつ)」というツボを指で数秒間押し続けることで、嘔吐反射が和らぐことがあるそうです。

https://twitter.com/kita20jou/status/881765255910572034?lang=gl