mmlog

歯の外傷治療と小児の歯内療法にかかわる本日の問いと仮説的推論  宮新 美智世

 

虐待関連の歯科診査項目について

 

 

医科病院において歯科医師が診査可能な項目

 

1)多量の歯垢沈着、歯の変色

 

2)歯の萌出の遅れ、乳歯から永久歯への交換の異常


3)多数歯のう蝕 、歯の欠損、咬合異常

4)重度の歯肉炎、歯周炎

 
5)歯の損傷(変色、破折、位置異常、動揺)

 
6)口腔軟組織の損傷(唇、歯肉、口腔粘膜、舌、小帯、口蓋、頬部、瘢痕、火傷、バイトマーク)

 

7)医科病院におけるエックス線診査データの口腔領域の異常所見

 

歯科医院において診査可能な項目

 

8)咬合の異常(臼歯の破折,顎の変位)

 

9)摂食嚥下機能の異常

 

10)エックス線診査所見上の異常-新鮮損傷、過去の損傷に起因する瘢痕

  

  正確なう蝕、外傷、歯周組織の診査

 

歯根破折(陳旧性、治癒不全)

  

骨折(歯槽骨、顎骨)

  

骨透過像(歯根膜拡大、骨吸収、辺縁骨喪失)

  

歯根吸収(外部吸収、内部吸収、象牙質瘤)

  

不透過像(歯髄腔狭窄)

 
11)歯髄診; 歯髄壊死

12)歯周ポケット診査、歯根膜剥離診査

 

13)動揺度診査(ペリオテスト)

 

14)歯冠色診査(透照診、歯冠亀裂診査)、TLP診査(歯髄血流循環診査)

 

15)軟組織の精査

 

 

 

○ 色で複数の打撲傷の時間経過を判定する。
・ 打撲後0~2日 腫れと痛み
・ 打撲後2~5日 赤色⇒青色
・ 打撲後5~7日 緑色
・ 打撲後7~9日 黄色
・ 打撲後9~日  茶色⇒痕が消える。

○ 咬み痕の判定と証拠としての記録
・ 大人によりつけられた咬み痕は、犬歯間幅径が3cm以上
・ 小児や若年者によりつけられた咬み痕は、犬歯間幅径が2.5~3cm。
・ 蒸留水によって潤された綿棒は、咬み痕に残っている唾液かDNAを抽出するのに使用される。
・ 咬み痕のカラー写真撮影(咬み痕に対して垂直に撮影する。)
・ すべての咬み痕の写真には比較用に定規ABFO Scale #2を写しこむ。
・ 少なくとも1個のクローズアップ写真に識別票をつけておく。
・ 咬み痕の印象は、シリコーン印象剤やポリエーテルラバーで行い、正確な石膏模型を制作する。
・ 頬の粘膜や舌に残っている精液はコットン綿花で採取する。 法定分析に挺出するすべての証拠品は、厳しい 証拠管理を行なう必要がある。


〇 身体的虐待(PHYSICAL ABUSE)
  頭蓋・顔面・頚部の損傷が児童虐待の半分程度で起る。
  児童虐待と養育放棄を疑うすべてのケースで注意深く綿密な口腔内と口腔周辺の検査が必要である。
さらに、すべての児童虐待や養育放棄の犠牲者であることが疑われる児童は、州の保護下にあるか養護施設にい  口腔外傷は、強制的な給餌中にスプーンやフォーク、ボトルなどの器具や手や指、高温の液体、腐食性物質により生じた可能性がある。

(※1)唇は口腔受傷が最もよく認められる場所であり(54%)、次いで口腔粘膜、歯肉、歯、舌の順で受傷します。
猿轡をされた場合、口角に打ち傷、擦過傷、裂傷が残る危険性がある。

いくつかの深刻な口腔外傷では、例えば喉の奥の外傷(後咽頭部外傷posterior pharyngeal injuries)や咽後膿瘍(retropharyngeal abscess)などは、医療扶助を得るために、喀血やその他の症状に見せかけるために、介護者が与えた故意の傷害の可能性がある。介護者の意図や動機にかかわらず、すべての故意の外傷は捜査機関に報告されなければならない。
 虐待による外傷と故意でない事故による口腔や身体への外傷は、受傷タイミングや原因を含む受傷の状況、及び傷の状態と子供の発育途上の能力との間に矛盾しない説明があるかどうかにより識別されなければならない。
 複数の傷、治癒段階の異なる傷、事実と食い違いがある説明があれば、虐待の徴候に気づくべきで、知識ある歯科医への紹介や診察が望ましい。

 

口腔は子供に対する性的虐待の常習的な場であるが、目に見える口腔の傷や感染があることはまれである。
口腔と生殖器との接触が疑われるとき、包括的な試験を行う準備がなされている専門医療機関への紹介が勧められる。
 特殊な培養技術と確証を得るための検査により診断された、学童の口腔及び口腔周辺の淋病(ガナリーア:gonorrhea)は性的虐待の医学的証拠になるが、性的虐待を受けたと疑われる児に症状が認められることはきわめてまれであり、咽頭の淋病はしばしば無症候性である。
 口腔と生殖器との接触が履歴や検査結果から疑われるとき、口腔性感染症の検査は、リスクファクター(例えば慢性の中毒者や性病を保有する加害者など)と児の臨床像をあわせて検討すること。

 ヒトパピローマウイルスの感染は口腔や口腔周囲の疣をもたらす。感染機構は不確実で論争の余地が残っています。この感染は口腔と生殖器との接触による性病以外にも、出世時の母子感染や他の子供や介護者の生殖器や口腔に触った手による性的でない感染もありえる。

 説明できない口蓋の傷や出血斑(petechiae)、特に軟硬口蓋の境界にある傷や出血斑は強要されたオーラルセックスの証拠である可能性がある。

 

 ・ 咬み痕(BITE MARKS)

 斑状出血(ecchymoses)、すり傷(abrasions)、裂傷(laceration)が楕円状または卵型をしたパターンで認められるとき、咬み痕を疑うべきです。

 咬み痕は斑状出血(ecchymoses)の中心に、①小血管の破断を伴う噛みつきによる圧力、または、②吸いつきや舌の前後運動によりもたらせた陰圧、による2種類の現象を表わすかもしれません。

 咬み痕は犬やその他の肉を引き裂く傾向をもつ肉食獣によっても与えられますが、人間が咬んだ場合、肉を圧迫して斑状出血、すり傷、裂傷、挫創を与えることはできますが、多くの場合、組織を引きちぎることまではできません。

 犬歯間の距離が3セントメートル以上の場合、人間の成人によりつけられたことを示唆しています。

 歯科医が用意されない場合、バイトマークのパターン、サイズ、輪郭、および色は法歯学者か法病理学者によって評価されるはずです。

 どちらの専門家の手もあかないならば、児童虐待外傷のパターンを経験した医師か歯科医師が、識別票のついたスケールマーカー(定規)を写しこんだ写真を撮影し、咬み痕の特性を観察して、記録するべきです。写真は、ひずみを避けるために、咬み痕の真上で垂直に撮影しなければなりません。
http://www.abfo.org/

 すべての咬み痕は、その写真による証拠保全に加えて、DNAを含む分泌物を綿花で拭い取った直後に、ポリビニールシロキサン印象を行う。 この印象は、咬み痕の立体的なモデルを提供するので写真撮影と印象採得は少なくとも3日間繰り返し行う。

唾液の中には血液型を示す成分が分泌されています。口腔上皮細胞由来のDNAが咬み痕に残っている可能性もあり、唾液と細胞が乾いている場合は
 最初に、蒸留水によって潤された無菌綿棒を用いて、問題とする場所を拭いて、乾かして標本保管チューブに保存。子供の皮膚の無関係な場所から3番目の対照試料を入手する。

 

デンタルネグレクトは、アメリカ小児歯科学会により、「親や保護者が、子供が治療の必要性があるにもかかわらず、痛みや感染や機能障害があっても、口腔の健康レベルを保つための歯科受診を意図的に行なわせないこと」と定義されている。
 適正な歯科治療を受けさせない怠慢は、孤立した環境下の家族、経済的困窮、親としての無知、歯科的健康観の欠如の結果であるかもしれない。

 

日本大学総合科学研究所の教授、赤坂守人氏は、子供虐待が起きる背景として以下の諸点を挙げています。

(「児童虐待」に対する学校歯科医の役割と対応 日本学校歯科医会会誌 92号 2004年12月号)

《子供虐待の背景》

子育て不安を抱える親は、いわば虐待予備軍とも言える。子育て不安の背景には、
① 社会的要因 
 核家族化、少子化、近隣関係の希薄化、情報の氾濫。子育て中の母親が破壊から孤立し、密室の中で子供と密着した関係になる。

② 母親へのサポート要因
 夫や家族が母親の子育てに対し、批判的、非協力である場合。特に子育て不安の強い母親の場合、父親の存在が見えないことがある。
③ 母親自身の要因
  母親が性格的に不安を持ちやすく、あるいは精神・心理疾患を持っている。
 若年で親として未成熟な状況。子供に対して過剰な期待をもつなど、子育てに不安となる。

④ 子供側の要因
 低出生体重や発育の遅れなど、ハイリスク児であって、育てにくい要因を持っている。