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歯の外傷治療と小児の歯内療法にかかわる本日の問いと仮説的推論  宮新 美智世

小児の歯内療法 その特徴と診断、治療

                                              1.小児の歯髄の意義と歯髄保存療法

健康志向の高まりに応じて、歯や歯髄を保存する要望が強まっている。歯髄保存療法が最も応用されてきたのは、小児期の歯内療法においてであった。その理由の第一は、歯髄が小児の幼若な永久歯を成長・発育させて完成に導く主役だからである。そして第二の理由は、乳歯が正常に歯根吸収して脱落するためには正常な歯髄が必要だからである。その上、無髄歯は破折しやすいことからも、歯髄保存はあらためて注目されている。

しかしたとえ充填処置であっても治療後の歯の歯髄は、軽度の慢性歯髄炎を伴っていることが知られている。つまり正常歯髄が維持できるとは限らないため、歯髄保存療法の後は、3年以上の定期的経過管理が必要である。特に、乳歯歯髄炎に対しては、後継永久歯の安全と正常な交換のために、抜歯の選択もありうる。このような特徴を小児と保護者に正確に理解させる必要がある、したがって、小児の歯髄保存療法や歯内治療は、経過管理と意義と限界について理解し同意した保護者をもつ患児が適応症となる。

ただし、歯科医師は歯髄保存療法術後の不快症状発現に対し不安感を抱く傾向がある。しかし、歯髄に関する最近の研究成果は、歯髄には旺盛な生活力があることを教えており、歯髄保存療法は正確な診断に基づいて行えば成功率が高い治療法である。小児期は齲蝕や外傷が多く、かつ若年者ほど歯髄が高い生活力を持つことを考えると、歯髄保存の活用は欠かせない。

 さて、歯髄保存療法は可逆性歯髄炎を適応症とする。歯髄診断に関しては、歯髄が保存不可能な場合、つまり不可逆性歯髄炎の診断が、かなり正確に行なえることが示されている。すなわち、不可逆性歯髄炎である確率が高い所見は、電気診閾値の上昇と、自発痛や露髄が共に見られる場合であるという。ただし幼い小児ほど、本人からの問診が困難であるため、客観的な診断手法を活用する意義が大きい。また、術前のみならず、治療途上でも診査を追加して、より正確な診断に近づくよう努めることが重要である。これに加え、小児と保護者には、歯髄保存療法の意義と限界、経過不良の兆候と確率、ならびに術後管理の重要性について十分説明し、理解してもらうことは極めて重要である。これが理解されていれば、たとえ不快症状等が生じた際も、問題は生じにくいであろう。

 

2.小児の診査における特徴と注意点

小児に対して痛みに関して問うと、その時点で最も気になっている部位のみを教える傾向がある。また、痛みの部位については、指さしやすい前歯部、特に下顎をさしやすいことを意識して診ることを勧める。

1)歯の変色

外傷の既往がある前歯に変色は多いが、変色歯に歯髄壊死が合併する確率は60%程度にとどまる。また、歯髄腔狭窄(歯髄の石灰化)が 変色を招いていることもある。一般に、歯冠の変色は口蓋側から観察した方が、明瞭であるが、乳歯の外傷後の変色においては、受傷後 8か月以内は、色の回復があることが知られているため、こまめな経過観察が望ましい。

その他、フッ化ジアミン銀(サホライド)を塗布されて黒変している乳歯を見かけるが、これは刺激の強い薬剤であり、これを塗布された象牙質齲蝕歯は歯髄炎を伴うく危険性がある。

2)電気診

乳歯における電気診を乳前歯で検討したところ、刺激に対する反応が、小児においては表情の変化や顔をそむけたり体をねじるなどの反応で示されることがわかり、この点を意識して幼児の反応を丁寧に読み取るよう努めると正答率は85%であった。また、電気診は、水酸化カルシウム断髄後の幼若永久歯の歯髄の生死も正確に診断可能である。

他方、瘻孔がある小児の歯を切削したところ疼痛を訴えられたがなぜかとの質問を受けることがある。歯髄の病理像は一様ではなく、各種炎症や壊死部分が混在することが記載されている。たとえ瘻孔が認められる歯も、小児においては電気診などによる歯髄生活反応の確認をお勧めする。もし生活反応陽性であれば局所麻酔を用い、麻酔が奏功したことを電気診で確認してから切削することで、無痛治療が可能になり、小児の協力も得られやすい。

 

3)露髄診

露髄の有無は、視診や実体顕微鏡観察、インピーダンス(電気抵抗値)測定(APIT)、過酸化水素水に対する発泡の有無などで診査する。

インピーダンス測定は、歯面を清掃し、表層の軟化象牙質をエナメル-象牙境に至る範囲を除去して粥状象牙質を払い取り、露髄の有無をエンドドンティックメーターTMやAPIT15で測定する。測定部位は生理食塩水で湿潤状態にして、かつ歯肉への電流の漏出を防湿し、測定端子には電気伝導性ペースト(歯磨きペーストなど)を少量つけて測定する。金属修復物や歯頚部歯肉との間を十分絶縁させる。

APIT15では、指示値6以上が仮性露髄、8以上は露髄との報告がある。

エンドドンティックメーター値32以上(13Ω以下)で露髄、仮性露髄はEM値28~32(13~16Ω)といわれる。

軟化象牙質は最大2.2Ω(APIT値1~2)に相当するインピーダンスをもっているため、象牙質を完全に除去した時点では、値が1~2上昇することが予想される。暫間的間接覆髄法などの際にこれらの値は有用である。

4)打診

打診に対する感じ方は、対象歯と比較して感覚の相違があるか否かを判断する。小児の場合、歯をノックしながら、

「これが1の歯。こっちは2の歯だよ。1の歯と2の歯を比べたら、どっちがいやな感じかな?」

などと、小児が答えやすい尋ね方にする。

1歯ずつノックしながら「痛かったらおしえてね」と単純に聞くと、歯をノックすることそのものが痛いという意味で、小児歯うなずくことがあるため、正しい診査ができない。

5)動揺度測定     

  歯の動揺は歯周組織の量的変化、歯根吸収や骨吸収の進行程度を反映する。歯周炎が進行し、歯根膜の破壊が進むと動揺が増す。そのほか、固定が効果を発揮しているのか、固定の脱離や 歯冠‐歯根破折、治癒の評価、骨性癒着の有無の判断などに有用である。いわゆるMillerの動揺度にくらべ、PERIOTESTは数値化でき、かつ再現性が高い点で小児には有用である。ただし、成人における動揺度より高めなのが小児の特徴で、動揺度1~2を示す場合がある。PERIOTEST値2.5 以上は、固定を要する脱臼歯に相当する。

6)エックス線所見

全部性の歯髄炎や根尖性歯周炎の初期においては、エックス線所見の異常がほとんどないことがある。他方、幼若永久歯では歯髄炎などの場合、反応性の骨硬化像(不透過像)を伴う頻度が成人よりは多い傾向がある。

内部吸収については、生活歯髄切断法の術後には歯髄炎に由来するものが低率ながら報告されている。また乳歯には特発性吸収があり、歯冠と歯根の双方の診査を行う。対側同名歯の吸収状態や年齢相応の平均的歯髄腔副径や歯根吸収との比較が重要になる。歯根吸収は、成人の永久歯よりも進行が速い点に注意を要する。

 

3.歯髄診断と処置法

小児では本人からの情報が得られにくいあめ、既往や症状の詳細情報は得にくい場合があるため、診査時は違和感を与えずに行い、小児の声に耳を傾け、保護者に詳しく話を聞くことになる。

(1)冷温水痛や、甘味違和感、咬合時違和感があった歯では、

① 露髄があるか、または覆髄・歯髄鎮静法によって症状が悪化した場合は、抜髄を要する。

② 自発痛と露髄があり、電気診反応への閾値上昇のある歯は、不可逆性歯髄炎である確率が高い。

③ 露髄がない歯で、覆髄により症状が消失した場合は、歯髄保存療法の適応である可能性が高い。

(2)冷温水痛や、甘味違和感、咬合時違和感、疼痛の既往がない場合は、露髄の状況で対応が異なる。

①露髄がない場合; 感染歯質を除去して間接覆髄を行う。 偶発露髄を生じた際は、直接覆髄を行う。

②仮性露髄の場合; 

 1回で治療を終える場合は、部分歯髄切断を行う。暫間的間接覆髄法(GCRP)は、間隔をあけた数回の治療を要する。

③露髄がある場合、

A 直接覆髄;外傷による破折に伴う露髄で、受傷1日以内であるものや、窩洞形成中の偶発露髄

B 部分歯髄切断法;歯髄ポリープや二次齲蝕である場合。断髄時に術中診断を行う。切断面に新鮮血の出血が見られ、瞬間止血して、その後に弱い出血の再開があるものは適応と判断する。

乳歯では歯根吸収が根の1/2以上に及んでいない歯が適応となる。

C 生活断髄時に止血せず炎症が疑われる場合や、露髄部に壊死や排膿がみられた歯に対して抜髄・根管治療をおこなう。乳歯は歯根吸収が明瞭でない場合に適応され、歯根吸収が明瞭なら,抜歯かFS断髄の適応となる。

 

4.形態的異常における歯髄保存

 形成不全歯や歯内歯、中心結節などは、口腔内に萌出すればすみやかに感染を起こす危険性があることから、できるだけ早期に被覆や修復を受けることが望ましい。また、エックス線診査にて萌出前に診断がついた場合は、萌出直前(歯肉内萌出時)に、開窓して覆髄することができ、最も安全な対応が可能になる。さらに、最終修復を想定して、当該歯がうける、切削等の侵襲を最低限度におさえるように、対合歯や隣接歯の間の空間をあらかじめ確保するための仮修復を行っておくことも有意義である。いずれも5歳ごろのエックス線診査で萌出前診断が可能であり、この年齢での診査の意義は大きい。

 

5.外傷歯の歯髄保存について

受傷歯の特徴は、外力が組織を瞬時に損傷する点で、歯の破折や脱臼、露髄や歯髄の断裂や歯槽骨骨折が起きる。これらのうち、破折に伴う露髄は、直後から歯髄炎症をもたらすが、露髄部のみならず象牙質の破折やエナメル質の裂を経由して、細菌や刺激が歯髄の病変を発現させることが示されている。そのほか、さらに長い時間が経過してから、損傷で生じた歯根膜の断裂や歯槽骨骨折などの急性歯周炎と歯の動揺が、歯髄に出血や虚血など多様な循環障害をもたらすことがある。また、断裂した歯根膜に侵入した細菌は上行性歯髄炎をおこす危険性がある。これらは歯髄壊死、歯髄腔狭窄、歯根吸収、歯根破折部の感染などの発現に関与する。したがって、歯の亀裂や破折の被覆、動揺歯の固定、口腔衛生指導は受傷歯の歯髄保存に寄与する。

その他、損傷後、経時的に観察され始める所見や合併症について、認識しておくことは有用である。

他方、歯根吸収の中には、歯髄の病態と関連ないものがあり、歯根吸収を起こした歯でも、歯髄は保存可能な場合がある。歯根吸収の種類と特徴を知ることは、歯の保存に役立つ。

 

6. 歯根未完成歯とその歯内療法の特徴

1)歯根未完成歯とは

 狭義の歯根未完成歯とは、成人の完成した永久歯との対比で、根尖孔の比較的開大した時期の若年者の歯を指している。萌出後2~3年で歯根が完成すると記載されるが、あくまで目安であり、実際の根尖孔は頬舌側方向と近遠心方向で直径が異なることが稀ならずあり、エックス線所見で歯根完成歯とみえても、根尖孔形態は慎重に診査しないと把握できない。

 また、永久歯の萌出については、歯根の形成量が完成時の約1/2に達すると萌出を開始し、犬歯のみ歯根の2/3が形成されると萌出するのが一般的である。ただし、歯根の形成程度がより低い状態でも口腔内に萌出することがある。これは、先行乳歯が根尖性歯周炎や外傷などで早期に失われて、歯槽骨が喪失した場合や、永久歯胚が感染したり、歯槽内で歯髄壊死を起した場合、形成不全歯の場合などで、歯根は無形成か形成途上であることが多いため、早期萌出として観察される。

 根管治療の対象となる歯根未完成歯は、ほとんど歯根の形成がない歯から、成人なのに明らかに根尖孔が広い症例まで、多様な状態がある。また、根未完成永久歯の特徴は、歯根長が短くとどまり、広い根管と根尖孔、薄い根管壁を有すること、そして石灰化が進行過程にあるため、歯質が柔らかく物性強度が低く、透明象牙質を有さないことである。なお、歯根未完成歯周囲の歯周組織における代謝は活発であり、歯槽骨の物性は低いが、豊富な骨髄が存在している。

2)適応症

歯根未完成歯の根管治療の適応症は、全部性歯髄炎、不可逆性歯髄炎、歯髄壊死、その他、歯根水平破折歯が、歯冠側破折片内の歯髄壊死を合併した場合、歯内歯の内腔の感染による歯根周囲炎を含む。これらの原因は、う蝕、外傷、歯内歯、中心結節破折、形成不全、歯根破折、歯根吸収 等がある。

3)根未完成歯の根管治療の特徴

根未完成歯の根管治療において、一般的な根管治療と異なる術式が必要とされるのは、根未完成歯の作業長の決定法と、根管充填法であろう。前者は、根管長測定が可能な電気根管長測定器の種類が限られていることで、後者は、広い根尖孔を封鎖するための硬組織誘導(Apexification) を要することである。そのため、根管充填が終了するまでの来院回数が多く、一般に来院期間が長くなる。

 

7.小児の電気的根管長測定について

 電気的根管長測定器は多種類開発されてはいるが、成人の完成した永久歯が対象とされており、根未完成歯を測定する時は極端に短く表示されるなど測定不能状態を示すものが多く、使用できる機種が限られる。幼若永久歯のApexificationや乳歯においては、根管形成の作業長が長すぎると根尖部組織や永久歯胚を損傷し、根尖性歯周炎をおこす。一方、短かすぎると根管内に異物や歯髄が残存し、糊剤の充填不足、組織侵入、感染、炎症を招く。

 

1)電気的根管長測定法

  電気的根管長測定器Apitは2種類(1kHz、5kHz)の電源周波数を用いて、それぞれの周波数でのインピーダンス計測値の差で根完成歯の根尖狭窄部を検出する機器である。Apit15を用い、根未完成歯や水平歯根破折部の根尖部の指標になるのは、メーター指示域“APEX”である。乳歯ではメーター表示WL範囲が根管形成の作業長となる。(完成した永久歯ではメーター表示WLの前後2目盛の範囲がにおける根尖から根管内部0.6~0.7㎜の範囲であるように設定されている。)測定針としてはNo.15ファイルをもちいると再現性が高い測定ができる。

測定に際しては、生理食塩水など電解性溶液を根管内根管口近傍まで満たして測定する。根管内に血液などの電解質が存在することは測定を妨げないが、歯冠外側まで溶液があふれていると測定困難となるため、歯冠外側の溶液はふき取っておく。歯冠崩壊が著しい場合は、隔壁を設けることを推奨する。

 なお、水平歯根破折歯が歯髄壊死を合併した症例における根管治療においては、破折線から歯冠側に精製水で練和した水酸化カルシウムを貼薬することが推奨されている。この治療において、歯根破折が頚部に近接している場合に、歯頸部への電流のリークが起きやすく根管長の測定が困難な場合がある。このような場合は、アジャスト方法をオートからマニュアルに変更して測定を行うことが推奨される。

 

2)エックス線写真を用いた根管長測定

 あらかじめ長さを測定したファイルやガッタパーチャポイントを根管内に挿入して、エックス線写真を撮影し、画像上の長さとの比率を用いて計算することで、根管長を算出する方法である。この方法は根管を直線的に測定するため、やや短めの値が出る危険性がある。ただし、電気的根管長測定により得られた根管長が、臨床に適切な範囲か否かを確認するために有効である。また、エックス線写真上に観察された硬組織の位置や性状、側枝や根側への根尖開口部の存在、歯根吸収、歯根破折などの診査が可能であり、電気的根管長測定により得られた値の意味について推察が可能となる。したがって、ガッタパーチャポイントやファイルを試適してのエックス線撮影は、電気根管長測定と併用すべきであろう。

 

 

表 歯根 吸収の臨床分類(宮新 1996 を改変)

①Ⅰ型歯根吸収   生活歯における歯根吸収で、深さ0.5 ㎜以下、歯髄炎や根尖性歯周炎を疑わせる所見がなく、2か月以上進行しない場合を指す。 水平歯根破折歯や軽度または中等度の脱臼歯などに観察されることがある。自然に吸収窩にセメント質様硬組織が添加して治癒 すると言われる。

②Ⅱ型歯根吸収  歯髄炎や歯髄壊死に伴って歯根内吸収を生じることがあり、いず れも抜髄または感染根管治療により阻止できることが多い。こ れらの歯根吸収が疑われた場 合は、デンタルエックス線写真の偏心投影やCBCT撮影によりなるべく短期間のうち外部吸収と判別 しなければならない。その他、後発する歯根内吸収として、象牙前質領域または根管充填材の外側を吸収するトンネル型歯根内 吸収があり、歯髄腔狭窄やⅣ型,Ⅴ型の歯根吸収との関連が疑われるが、本体が不明である。

画像所見で、1 ~2か月の間に歯根吸収が進行した場合は、抜髄または根管治療を行い、歯の喪失を阻止する必要がある。トン ネル型吸収に対してはⅣ型,Ⅴ型の歯根吸収同様の外科的対応も考慮する。

③Ⅲ型歯根吸収  歯髄炎や歯髄壊死に伴って歯根外吸収を生じたもので、抜髄 または根管治療により阻止できることが多い。 画像所見で歯根吸 収の進行を認め、かつ歯髄炎や歯髄感染の疑いがある場合は抜髄し、歯の喪失を阻止する必要がある。 約2か月で歯の大半を 喪失する場合があるほか、 歯髄壊死が放置された歯には進行性歯根吸収やⅣ型歯根吸収となる危険性がある。画像所見で1~2 か月内に歯根吸収の進行を認めた場合は、軽度の歯髄炎や歯髄感染の疑いがあるだけでも抜髄し、歯の喪失を阻止する ために 必要な場合がある。歯内療法開始後は歯根吸収の進行が止まり、吸収されていた骨や歯根のX線透過像が改善することが多い。

 ④Ⅳ型歯根吸収  低位化を伴わないが、歯内療法を行っても進行が停止しない 進行性歯根吸収。歯頸部侵襲性歯根吸収などの形で遅発する危 険性がある。 受傷後1年以後も遅発する危険性があることは、受傷歯は年単位で長期的に定期診査を受けることが望ましいとされ る理由になっている 。動物における実験的脱臼においても、歯頸部に軽度の歯根吸収が長期にわたり観察されていることから、歯根吸収の機序の解明が待たれる。

吸収が急速な場合は、断層撮影、CBCT 等により位置と骨の状態を確認したのち、外科的歯内療法で吸収窩を掻把したり、さら に吸収窩を接着性レジンで充填することで進行が阻止できる場合がある。しかし、歯根吸収歯の病理については未だ不明な点が 多く、歯根吸収を進行させないために も、受傷歯を初期対応において愛護的に扱うことと、術後の経過管理を適切に行い、歯髄の 異常を放置することなく発見し、診断すると共に、 歯内療法を遅滞なく実施することが欠かせない。

⑤Ⅴ型歯根吸収

  低位化と辺縁骨喪失を特徴とする進行性吸収。 歯髄の生死、炎症の有無に関係なく、正常歯髄を有する歯にも生じる ため、歯周組織の損傷に起因すると推察されている。低位化 には一過性のものと、継続性のものがあり、1 年程度で低位化が解消し、低位にあ った歯が元の咬合を回復する場合もある。 もし、吸収が進んで歯槽骨と歯 根が置換される経過を取る場合は、歯槽骨保存の意義があるため、当該歯は保存し、経過観察 する。また、低位化が進行し、隣在歯も低位化や対咬歯の挺出など、咬合に悪影響を与える場合は、抜歯と矯正治療が選択され るが、このような問題が生じない場合は、未成年では低位化した歯冠にコンポジットレジン修復を行い、審美的な改善を試みる。Ⅴ型の歯根吸収に対しては、部位が一部的で特定できれば外科的歯内療法で吸収窩を掻把したり、さらに吸収窩を接着性レジンで 充填することで進行が阻止できる場合がある 。この型の歯根吸収は、脱落再植や陥入症例に認められるという特徴があることから、受傷歯を初期対応において愛護的に扱う必要があるだけでなく、受傷歯が陥入を併発していないか、 受傷当初に検出し ておくことが早期発見の可能性を高める 。

 

8.小児の歯内療法の術式  

 

Ⅰ.暫間的間接覆髄法 GCRP(Gross Caries Removal Procedure)  

  象牙質を完全に除去すると、露髄する可能性が高い乳歯や、幼若永久歯に対して、歯髄の旺盛な修復象牙質の形成を期待して、段階的経時的に歯髄の保護を図る暫間的歯髄処置である。

  術式: 

1)除痛

2)ラパーダム防湿、歯面の清掃

3)ウ窩の開拡、

軟化象牙質を残した後、インピーダンス14KΩ以上(APIT値6.5以下)

4) 水酸化カルシウム製剤で間接覆髄法を行い、次回6週-3カ月後に再診査し、覆髄剤を交換する。その時点まで十分な封鎖性と耐久性のある修復方法を選択すること。

異常所見がなく、覆髄面の電気抵抗値が象牙質窩洞の値になった時点で、軟化象牙質を完全に除去して修復を終了する。

 

Ⅱ.生活断髄法  (Vital Pulpotomy)

 

冠部歯髄に限局した病的組織を除去し、歯根部に残留する生活歯髄を切断し、糊剤で被覆、これを治癒保存させる方法である。

1.水酸化カルシウム

 術式

 1)除痛

 2)ラパーダム防湿、歯面の清掃

 3)ウ窩の開拡、感染歯質除去

 4)天蓋除去; 露髄点を連ねて、天蓋はなるべく一塊として除去し、髄角も除去する。

            術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

 5)歯冠部歯髄除去、切断; 滅菌ラウンドバー(#4~6)を逆回転させ、歯冠部歯髄をかきあげながら、歯髄を切断6)切断面の修正; バーを正回転に改め、根管口の歯髄切断面を整え、生理食塩水で十分洗浄し、吸引と綿球で 

   水分を除去

断髄面からの出血が鮮紅色で、洗浄後に瞬時歯髄が見えてから出血で覆われるものが適応症。

(断髄面からの出血が暗赤色で多い場合は抜髄。歯根吸収が明瞭であればFS法または抜歯)

7)水酸化カルシウムと滅菌水を滅菌練板上で練り、歯髄切断面に貼付する。 髄床底全体を覆う。 

8)グラスアイオノマーセメントを充填する

9)臼歯はアンレーまたは被覆冠、前歯はレジン修復を行う。

10)経過観察   1週以内に診査。3か月以内にエックス線診査で内部吸収、歯根吸収に注意。

冷水痛の持続、温水痛、打診痛、咬合違和感、電気診反応陰性は不良所見。

 

 

2,

 

FS; 硫酸第二鉄貼布法。乳歯に適用れ、成績がFC法と同等。生体親和性、操作性等に欠点がない。

 術式

1)除痛、歯面の清掃、ラパーダム防湿、

2)ウ窩の開拡、感染歯質除去、天蓋除去;術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

3)歯冠部歯髄除去、切断; 滅菌ラウンドバー(#4~)を逆回転させ、生理食塩水注水下で歯冠部歯髄をかきあげ歯髄を切断する。

4)バーを正回転に改め、根管口の歯髄切断面を整え、生理食塩水で十分洗浄し、吸引と綿球で水分を除去する。瞬時歯髄が見えてから鮮血で覆われたら適応症。

5) 15.5%硫酸第二鉄(アストリンゼント®)を1分適用して生理食塩水で洗浄し、吸引と綿球で水分を除く。

6)  酸化亜鉛ユージノール糊剤を歯髄切断面に貼付し、 髄床底全体を覆う。 

7) グラスアイオノマーセメントを充填する

8) 臼歯はアンレーまたは被覆冠、前歯はレジン修復を行う。

9) 経過観察  1週以内に診査。3か月以内にエックス線診査で内部吸収、歯根吸収に注意。

冷水痛の持続、温水痛、打診痛、咬合違和感、電気診反応陰性は不良所見。

 

 

Ⅲ.乳歯の抜髄

術式

 1)除痛

 2)ラバーダム防湿、歯面の清掃

 3)ウ窩の開拡、感染歯質除去

 4)天蓋除去,髄室清掃

    髄角の除去、術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

    根管上部形成  #35ファイルで直線部を形成、ダイアモンドバー、バットコーンパー

  根管長測定; 電気的根管長測定: APITで WL・X線写真を参考に,

# 15ファイル 

5) 洗浄; 生埋的食塩水

   乾燥; バキューム+洗浄針、ペーパーポイント

6) 根管形成、根管長の訂正

  ①lnitial Apical File(IAF);軽い抵抗感を伴い根尖へ到達するファイル をみいだす。

  ②根尖孔拡大; 基準は、 IAFの2段階太いファイル Master Apical File(MAF)まで

7)貼薬・仮封;Ca(OH)(飽和水溶液で可)やヨードチンキ                 

 

8)抜髄2回目

  ①Step Back Preparation;MAFより1段階太いファイルで1mm短く根管形成

          洗浄水を満たした中で IAFでファイリング(Apical clearing)

  ②根管長の再確認

③根管の滑沢化

9)根管充填

   根充可能な指標:急性症状の消退、根管の乾燥が可能であること

根管充填剤:酸化亜鉛ユージノール製剤(キャナルス)

  レンツロ(またはコンデンサー)は作業長マイナス2mmで低速回転10秒。

マイナス3mmで低速回転10秒。

あとはゆっくり引き上げて糊剤をならす。

  仮封、 X線写真撮影

10)予後判定

   1週間後、特に症状がなく、臨床所見の改善があれば修復処置を行う。

   2-3カ月後X線診査X線所見の悪化がある場合は抜歯を検討する。

   以後、3-6カ月毎にX線検査を継続する。

 

 

Ⅳ.乳歯の感染根管治療

術式

1)除痛(残髄ならびにラバーダムに麻酔を要するとき)

 2)ラバーダム防湿、歯面の清掃

 3)ウ窩の開拡、感染歯質除去

 4)天蓋除去,髄室清掃

    髄角の除去、術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

    根管上部形成  #35ファイルで直線部を形成、ダイアモンドバー、バットコーンパー

  根管長測定;  電気的根管長測定: APITで WL・X線写真を参考に,

# 15ファイルで

洗浄は生埋的食塩水

    吸引乾燥;バキューム+洗浄針、ペーパーポイント

5)貼薬;CMCPまたはメトコール

2重仮封

 

6)根管治療2回目以後

根管形成

  ①lnitial Apical File(IAF);軽い抵抗感を伴い根尖へ到達するファイル をみいだす。

  ②根尖孔拡大; 基準は、 IAFの2段階太いファイル Master Apical File(MAF)まで

③Step Back Preparation;MAFより1段階太いファイルで1㎜短く根管形成

          その後、洗浄水を満たした中で IAFでファイリング(Apical clearing)

  ④根管長の再確認

⑤根管の滑沢化

 

7)2回目以後の貼薬;Ca(OH)(飽和水溶液で可)                 

 

8)根管充填は抜髄と同様。 

9)予後判定

   1週間後、特に症状がなく、臨床所見の改善があれば修復処置を行う。

   2-3か月後X線診査。 X線所見の改善が見られない場合は抜歯を検討する。

   以後、3-6か月毎にX線検査を継続する。

 

Ⅴ Apexificationから根管充填

Apexification とは、歯根未完成歯が全部性歯髄炎や歯髄壊死により、根管治療の適応となった場合、ガッタパーチャによる根管充填に先立ち、水酸化カルシウム糊剤を暫間的に根管充填することを繰り返して、根尖部に硬組織形成を促し、これによって根尖部の閉鎖をはかることである。歯髄炎、歯髄感染に伴う歯根吸収や、歯根水平破折歯の歯冠側破折片の歯髄壊死などにも適用される。

術式

1)除痛   歯髄炎といった炎症を有する歯においては麻酔が奏功しにくい。電気歯髄診によって、麻酔が奏功したことを確認してからの切削を勧める。無痛治療下では小児の協力が得やすい。瘻孔を有する歯でも、歯髄の少なくとも一部は、感覚が残存していることは稀でないため、その場合は局所麻酔を応用する。

2)歯面の清掃、ラバーダム防湿

根未完成歯は萌出程度も不十分で、クランプを装着しにくいことがある。より後方の隣在歯に装着して、患歯をフロスで結紮するか、当該歯に接着性レジンと光重合コンポジットレジン等で小突起を作り装着する。 

3)軟化象牙質の除去  う窩の軟化象牙質を除去し、感染歯質を取り除く。

4)天蓋除去、髄室清掃

 髄角を除去する。アンダーカットは除去するが、元々薄い歯質であるため、最低限の除去にとどめる(図4)。

(1)術野の消毒(ラバーダム上をヨードチンキとアルコールを用いて消毒)

(2)根管上部形成  ;ダイアモンドバーやバットコーンバー:#35ファイルで直線部を形成

5)根管長測定

(1)電気的根管長測定:# 15ファイルとAPIT15

(2)エックス線診査;術前のエックス線写真の撮影の際に、歯冠にX線造影性を有する指標(ガッタパーチャポイント等、長さをあらかじめ測定したもの)を貼りつけて撮影する。または、根管形成に際してファイルやガッタパーチャポイントを根管内に試摘して、エックス線撮影を行う。

(3)管内を触知した際の感覚を参考にする(根管壁の連続性や柔らかさ等)

(4)患者の感覚を参考にする。(小児の歯髄は、一部に壊死があっても、それ以外の部分にふれると疼痛を訴えることが稀ではない。ただし、疼痛があったとしてもそれが健全組織であるとは判断できない。他の診査結果から総合的に診断する必要がある。また、残髄.穿孔,息肉(根尖から根管内に侵入した組織)等を鑑別する必要がある。)

 

6)洗浄:生埋的食塩水(次亜塩素酸ナトリウムは根尖外で腐骨形成をする危険性があり使わない)

水圧で根管内容物を根尖孔外へ出さないよう、滴下する程度の軽圧で洗浄を行う。

 乾燥:洗浄針を作業長の範囲で根管内に入れバキュームで吸引する。ペーパーポイントは、根尖部の出血や滲出液の診査や、根尖部閉鎖硬組織形成後の根管充填の直前に根管の乾燥をチェックする時点で使用する(根未完成歯の根管内に用いたペーパーポイントの線維が根尖孔外に出て肉芽腫を作ったとする報告がある)。

7)根管形成

(1)髄腔開拡:歯質が薄く柔らかいため必要最小限度にとどめる。

(2)lnitial Apical File(IAF):根尖へ到達する最も太いHファイルの号数を、おおよその根尖径の指標とするが、開大している場合は、触知はできない。実際は、♯70程度の径のファイルで、軽圧下での円周ファイリングを2周行うことを目安とし、根尖孔外への押し出しをしないように、歯髄を除去する。

(3)ファイルを1番手太くするたびに必ず洗浄と吸引を行う。

8)貼薬・仮封

水酸化カルシウムと滅菌水を体積比2対1で練和し、レンツロやコンデンサー(#35以上)で根管充填する。作業長-2㎜に挿入して低速回転(800~1000回転/分)、回転時間は20秒程度。

感染根管ではCMCP(カンファレーテドモノパラクロロフェノール)を使用。綿球につけて絞ったものを根管口に置く。市販の薬剤では、メトコール®の成分が類似した剤品である(グアヤコール・パラクロロフェノール)。二重仮封;水硬性セメントやストッピングに加え、光硬化型アイオノマーセメントまたはコンポジットレジンで2重仮封とし、咬合をチェックする。さらに臼歯部ではバンドを適合させ、セメント合着することで歯冠歯根破折を予防する。

9)治療間隔:次回治療は約1か月後に設定し、この際、根管内への浸出液が少ないことが確認できた場合は、その後の来院は3~4か月後とする。浸出液等による糊剤の着色やほとんどの水酸化カルシウムが消失していた場合は、1か月以内に再貼薬する。

 

10)2回目以後

(1)仮封の除去と貼薬の除去:仮封材および綿球を根管内の根尖側に落とさないように注意する。貼薬した水酸化カルシウムが消失していたり、浸出液や血液が根管を充たしている場合には、1か月以内に次回の治療を設定するが、歯根吸収の進行や穿孔、側枝などについても留意する必要がある。根管内の水酸化カルシウムの水分が少なくなっている場合は、根尖孔が閉鎖に近づいていることを示している。

(2)根管長の再確認:生理的食塩水を満たした状態で#15ファイルを用いて測定する。異物や目詰まり,穿孔の有無を確認する。

(3)根管の滑沢化:根管内に生理的食塩水を充たし、IAF(最低#70)を用いて軽圧下にて内壁を滑沢にする。 

(4)根管充填の時期にについて:急性症状がなく、根管内の乾燥が得られ、根尖にガッタパーチャを支えるに適した硬組織が触知された場合は、ファイルまたはガッタパーチャポイントを試適してエックス線写真撮影を行い、作業長の決定と根尖部の確認を行ってから根管充填に移る。これらが達成されるまでは、水酸化カルシウム-水糊剤の貼薬・二重仮封により、3~4か月毎に同様に治療する。

(5)根管充填法:側方加圧根管充填法に際しては、太いガッタパーチャポイントを作って用いる。根充には接着性レジンシーラー(メタシールSoftペースト)とフィンガースプレッダー(MANI)とアクセサリーポイントを用いる。根尖開口部の直径が0.4㎜(ファイル#40)より小さいときは、垂直加圧根管充填法も適用可能である。

 

11)仮封:光重合型アイオノマーセメント、コンポジットレジン等

12)X線写真撮影

13)歯冠修復

(1)臼歯部

咬頭被覆型の修復を行う(アンレーまたは全部被覆冠)。歯質崩壊の著しい臼歯においては、バンドを装着してこれを隔壁とする。さらに、歯内療法後も、バンドを装着したまま、歯髄腔は接着性レジンで接着して、コンポジットレジン充填を行うことができる。ただし、バンドは6か月ごとに外して歯を清掃し、歯にフッ素を塗布して、再度装着して第二大臼歯の咬合が完成するまで管理を継続したあと、アンレーまたは全部冠修復を行う。

(2)前歯部

アクセス窩洞に対しては、コンポジットレジン充填が用いられてきたが、歯冠歯根破折が多いため、適切な材料選択が必要である。修復方法を検討した結果、接着性レジンとコンポジットレジンの適切な組み合わせが報告されている。接着性レジンはスーパーボンドC&B(サンメディカル)を用いる。また付与する咬合は、アクセス窩洞内に充填したコンポジットレジンには咬合接触させない方が破折しにくい。6か月毎に咬合の診査と調整を行う。充填部の経年劣化があるので、数年に1度は再充填処置を行う。

 

 

文献

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  • 松村木綿子,宮新美智世,舩山研二,江橋美穂,片野尚子,高木裕三. 外傷により埋入した乳歯の再萌出と,その長期的臨床経過. 歯科臨床研究 2 (2): 75-89, 2005
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小児の歯内療法 その特徴と診断、治療

                                              1.小児の歯髄の意義と歯髄保存療法

健康志向の高まりに応じて、歯や歯髄を保存する要望が強まっている。歯髄保存療法が最も応用されてきたのは、小児期の歯内療法においてであった。その理由の第一は、歯髄が小児の幼若な永久歯を成長・発育させて完成に導く主役だからである。そして第二の理由は、乳歯が正常に歯根吸収して脱落するためには正常な歯髄が必要だからである。その上、無髄歯は破折しやすいことからも、歯髄保存はあらためて注目されている。

しかしたとえ充填処置であっても治療後の歯の歯髄は、軽度の慢性歯髄炎を伴っていることが知られている。つまり正常歯髄が維持できるとは限らないため、歯髄保存療法の後は、3年以上の定期的経過管理が必要である。特に、乳歯歯髄炎に対しては、後継永久歯の安全と正常な交換のために、抜歯の選択もありうる。このような特徴を小児と保護者に正確に理解させる必要がある、したがって、小児の歯髄保存療法や歯内治療は、経過管理と意義と限界について理解し同意した保護者をもつ患児が適応症となる。

ただし、歯科医師は歯髄保存療法術後の不快症状発現に対し不安感を抱く傾向がある。しかし、歯髄に関する最近の研究成果は、歯髄には旺盛な生活力があることを教えており、歯髄保存療法は正確な診断に基づいて行えば成功率が高い治療法である。小児期は齲蝕や外傷が多く、かつ若年者ほど歯髄が高い生活力を持つことを考えると、歯髄保存の活用は欠かせない。

 さて、歯髄保存療法は可逆性歯髄炎を適応症とする。歯髄診断に関しては、歯髄が保存不可能な場合、つまり不可逆性歯髄炎の診断が、かなり正確に行なえることが示されている。すなわち、不可逆性歯髄炎である確率が高い所見は、電気診閾値の上昇と、自発痛や露髄が共に見られる場合であるという。ただし幼い小児ほど、本人からの問診が困難であるため、客観的な診断手法を活用する意義が大きい。また、術前のみならず、治療途上でも診査を追加して、より正確な診断に近づくよう努めることが重要である。これに加え、小児と保護者には、歯髄保存療法の意義と限界、経過不良の兆候と確率、ならびに術後管理の重要性について十分説明し、理解してもらうことは極めて重要である。これが理解されていれば、たとえ不快症状等が生じた際も、問題は生じにくいであろう。

 

2.小児の診査における特徴と注意点

小児に対して痛みに関して問うと、その時点で最も気になっている部位のみを教える傾向がある。また、痛みの部位については、指さしやすい前歯部、特に下顎をさしやすいことを意識して診ることを勧める。

1)歯の変色

外傷の既往がある前歯に変色は多いが、変色歯に歯髄壊死が合併する確率は60%程度にとどまる。また、歯髄腔狭窄(歯髄の石灰化)が 変色を招いていることもある。一般に、歯冠の変色は口蓋側から観察した方が、明瞭であるが、乳歯の外傷後の変色においては、受傷後 8か月以内は、色の回復があることが知られているため、こまめな経過観察が望ましい。

その他、フッ化ジアミン銀(サホライド)を塗布されて黒変している乳歯を見かけるが、これは刺激の強い薬剤であり、これを塗布された象牙質齲蝕歯は歯髄炎を伴うく危険性がある。

2)電気診

乳歯における電気診を乳前歯で検討したところ、刺激に対する反応が、小児においては表情の変化や顔をそむけたり体をねじるなどの反応で示されることがわかり、この点を意識して幼児の反応を丁寧に読み取るよう努めると正答率は85%であった。また、電気診は、水酸化カルシウム断髄後の幼若永久歯の歯髄の生死も正確に診断可能である。

他方、瘻孔がある小児の歯を切削したところ疼痛を訴えられたがなぜかとの質問を受けることがある。歯髄の病理像は一様ではなく、各種炎症や壊死部分が混在することが記載されている。たとえ瘻孔が認められる歯も、小児においては電気診などによる歯髄生活反応の確認をお勧めする。もし生活反応陽性であれば局所麻酔を用い、麻酔が奏功したことを電気診で確認してから切削することで、無痛治療が可能になり、小児の協力も得られやすい。

 

3)露髄診

露髄の有無は、視診や実体顕微鏡観察、インピーダンス(電気抵抗値)測定(APIT)、過酸化水素水に対する発泡の有無などで診査する。

インピーダンス測定は、歯面を清掃し、表層の軟化象牙質をエナメル-象牙境に至る範囲を除去して粥状象牙質を払い取り、露髄の有無をエンドドンティックメーターTMやAPIT15で測定する。測定部位は生理食塩水で湿潤状態にして、かつ歯肉への電流の漏出を防湿し、測定端子には電気伝導性ペースト(歯磨きペーストなど)を少量つけて測定する。金属修復物や歯頚部歯肉との間を十分絶縁させる。

APIT15では、指示値6以上が仮性露髄、8以上は露髄との報告がある。

エンドドンティックメーター値32以上(13Ω以下)で露髄、仮性露髄はEM値28~32(13~16Ω)といわれる。

軟化象牙質は最大2.2Ω(APIT値1~2)に相当するインピーダンスをもっているため、象牙質を完全に除去した時点では、値が1~2上昇することが予想される。暫間的間接覆髄法などの際にこれらの値は有用である。

4)打診

打診に対する感じ方は、対象歯と比較して感覚の相違があるか否かを判断する。小児の場合、歯をノックしながら、

「これが1の歯。こっちは2の歯だよ。1の歯と2の歯を比べたら、どっちがいやな感じかな?」

などと、小児が答えやすい尋ね方にする。

1歯ずつノックしながら「痛かったらおしえてね」と単純に聞くと、歯をノックすることそのものが痛いという意味で、小児歯うなずくことがあるため、正しい診査ができない。

5)動揺度測定     

  歯の動揺は歯周組織の量的変化、歯根吸収や骨吸収の進行程度を反映する。歯周炎が進行し、歯根膜の破壊が進むと動揺が増す。そのほか、固定が効果を発揮しているのか、固定の脱離や 歯冠‐歯根破折、治癒の評価、骨性癒着の有無の判断などに有用である。いわゆるMillerの動揺度にくらべ、PERIOTESTは数値化でき、かつ再現性が高い点で小児には有用である。ただし、成人における動揺度より高めなのが小児の特徴で、動揺度1~2を示す場合がある。PERIOTEST値2.5 以上は、固定を要する脱臼歯に相当する。

6)エックス線所見

全部性の歯髄炎や根尖性歯周炎の初期においては、エックス線所見の異常がほとんどないことがある。他方、幼若永久歯では歯髄炎などの場合、反応性の骨硬化像(不透過像)を伴う頻度が成人よりは多い傾向がある。

内部吸収については、生活歯髄切断法の術後には歯髄炎に由来するものが低率ながら報告されている。また乳歯には特発性吸収があり、歯冠と歯根の双方の診査を行う。対側同名歯の吸収状態や年齢相応の平均的歯髄腔副径や歯根吸収との比較が重要になる。歯根吸収は、成人の永久歯よりも進行が速い点に注意を要する。

 

3.歯髄診断と処置法

小児では本人からの情報が得られにくいあめ、既往や症状の詳細情報は得にくい場合があるため、診査時は違和感を与えずに行い、小児の声に耳を傾け、保護者に詳しく話を聞くことになる。

(1)冷温水痛や、甘味違和感、咬合時違和感があった歯では、

① 露髄があるか、または覆髄・歯髄鎮静法によって症状が悪化した場合は、抜髄を要する。

② 自発痛と露髄があり、電気診反応への閾値上昇のある歯は、不可逆性歯髄炎である確率が高い。

③ 露髄がない歯で、覆髄により症状が消失した場合は、歯髄保存療法の適応である可能性が高い。

(2)冷温水痛や、甘味違和感、咬合時違和感、疼痛の既往がない場合は、露髄の状況で対応が異なる。

①露髄がない場合; 感染歯質を除去して間接覆髄を行う。 偶発露髄を生じた際は、直接覆髄を行う。

②仮性露髄の場合; 

 1回で治療を終える場合は、部分歯髄切断を行う。暫間的間接覆髄法(GCRP)は、間隔をあけた数回の治療を要する。

③露髄がある場合、

A 直接覆髄;外傷による破折に伴う露髄で、受傷1日以内であるものや、窩洞形成中の偶発露髄

B 部分歯髄切断法;歯髄ポリープや二次齲蝕である場合。断髄時に術中診断を行う。切断面に新鮮血の出血が見られ、瞬間止血して、その後に弱い出血の再開があるものは適応と判断する。

乳歯では歯根吸収が根の1/2以上に及んでいない歯が適応となる。

C 生活断髄時に止血せず炎症が疑われる場合や、露髄部に壊死や排膿がみられた歯に対して抜髄・根管治療をおこなう。乳歯は歯根吸収が明瞭でない場合に適応され、歯根吸収が明瞭なら,抜歯かFS断髄の適応となる。

 

4.形態的異常における歯髄保存

 形成不全歯や歯内歯、中心結節などは、口腔内に萌出すればすみやかに感染を起こす危険性があることから、できるだけ早期に被覆や修復を受けることが望ましい。また、エックス線診査にて萌出前に診断がついた場合は、萌出直前(歯肉内萌出時)に、開窓して覆髄することができ、最も安全な対応が可能になる。さらに、最終修復を想定して、当該歯がうける、切削等の侵襲を最低限度におさえるように、対合歯や隣接歯の間の空間をあらかじめ確保するための仮修復を行っておくことも有意義である。いずれも5歳ごろのエックス線診査で萌出前診断が可能であり、この年齢での診査の意義は大きい。

 

5.外傷歯の歯髄保存について

受傷歯の特徴は、外力が組織を瞬時に損傷する点で、歯の破折や脱臼、露髄や歯髄の断裂や歯槽骨骨折が起きる。これらのうち、破折に伴う露髄は、直後から歯髄炎症をもたらすが、露髄部のみならず象牙質の破折やエナメル質の裂を経由して、細菌や刺激が歯髄の病変を発現させることが示されている。そのほか、さらに長い時間が経過してから、損傷で生じた歯根膜の断裂や歯槽骨骨折などの急性歯周炎と歯の動揺が、歯髄に出血や虚血など多様な循環障害をもたらすことがある。また、断裂した歯根膜に侵入した細菌は上行性歯髄炎をおこす危険性がある。これらは歯髄壊死、歯髄腔狭窄、歯根吸収、歯根破折部の感染などの発現に関与する。したがって、歯の亀裂や破折の被覆、動揺歯の固定、口腔衛生指導は受傷歯の歯髄保存に寄与する。

その他、損傷後、経時的に観察され始める所見や合併症について、認識しておくことは有用である。

他方、歯根吸収の中には、歯髄の病態と関連ないものがあり、歯根吸収を起こした歯でも、歯髄は保存可能な場合がある。歯根吸収の種類と特徴を知ることは、歯の保存に役立つ。

 

6. 歯根未完成歯とその歯内療法の特徴

1)歯根未完成歯とは

 狭義の歯根未完成歯とは、成人の完成した永久歯との対比で、根尖孔の比較的開大した時期の若年者の歯を指している。萌出後2~3年で歯根が完成すると記載されるが、あくまで目安であり、実際の根尖孔は頬舌側方向と近遠心方向で直径が異なることが稀ならずあり、エックス線所見で歯根完成歯とみえても、根尖孔形態は慎重に診査しないと把握できない。

 また、永久歯の萌出については、歯根の形成量が完成時の約1/2に達すると萌出を開始し、犬歯のみ歯根の2/3が形成されると萌出するのが一般的である。ただし、歯根の形成程度がより低い状態でも口腔内に萌出することがある。これは、先行乳歯が根尖性歯周炎や外傷などで早期に失われて、歯槽骨が喪失した場合や、永久歯胚が感染したり、歯槽内で歯髄壊死を起した場合、形成不全歯の場合などで、歯根は無形成か形成途上であることが多いため、早期萌出として観察される。

 根管治療の対象となる歯根未完成歯は、ほとんど歯根の形成がない歯から、成人なのに明らかに根尖孔が広い症例まで、多様な状態がある。また、根未完成永久歯の特徴は、歯根長が短くとどまり、広い根管と根尖孔、薄い根管壁を有すること、そして石灰化が進行過程にあるため、歯質が柔らかく物性強度が低く、透明象牙質を有さないことである。なお、歯根未完成歯周囲の歯周組織における代謝は活発であり、歯槽骨の物性は低いが、豊富な骨髄が存在している。

2)適応症

歯根未完成歯の根管治療の適応症は、全部性歯髄炎、不可逆性歯髄炎、歯髄壊死、その他、歯根水平破折歯が、歯冠側破折片内の歯髄壊死を合併した場合、歯内歯の内腔の感染による歯根周囲炎を含む。これらの原因は、う蝕、外傷、歯内歯、中心結節破折、形成不全、歯根破折、歯根吸収 等がある。

3)根未完成歯の根管治療の特徴

根未完成歯の根管治療において、一般的な根管治療と異なる術式が必要とされるのは、根未完成歯の作業長の決定法と、根管充填法であろう。前者は、根管長測定が可能な電気根管長測定器の種類が限られていることで、後者は、広い根尖孔を封鎖するための硬組織誘導(Apexification) を要することである。そのため、根管充填が終了するまでの来院回数が多く、一般に来院期間が長くなる。

 

7.小児の電気的根管長測定について

 電気的根管長測定器は多種類開発されてはいるが、成人の完成した永久歯が対象とされており、根未完成歯を測定する時は極端に短く表示されるなど測定不能状態を示すものが多く、使用できる機種が限られる。幼若永久歯のApexificationや乳歯においては、根管形成の作業長が長すぎると根尖部組織や永久歯胚を損傷し、根尖性歯周炎をおこす。一方、短かすぎると根管内に異物や歯髄が残存し、糊剤の充填不足、組織侵入、感染、炎症を招く。

 

1)電気的根管長測定法

  電気的根管長測定器Apitは2種類(1kHz、5kHz)の電源周波数を用いて、それぞれの周波数でのインピーダンス計測値の差で根完成歯の根尖狭窄部を検出する機器である。Apit15を用い、根未完成歯や水平歯根破折部の根尖部の指標になるのは、メーター指示域“APEX”である。乳歯ではメーター表示WL範囲が根管形成の作業長となる。(完成した永久歯ではメーター表示WLの前後2目盛の範囲がにおける根尖から根管内部0.6~0.7㎜の範囲であるように設定されている。)測定針としてはNo.15ファイルをもちいると再現性が高い測定ができる。

測定に際しては、生理食塩水など電解性溶液を根管内根管口近傍まで満たして測定する。根管内に血液などの電解質が存在することは測定を妨げないが、歯冠外側まで溶液があふれていると測定困難となるため、歯冠外側の溶液はふき取っておく。歯冠崩壊が著しい場合は、隔壁を設けることを推奨する。

 なお、水平歯根破折歯が歯髄壊死を合併した症例における根管治療においては、破折線から歯冠側に精製水で練和した水酸化カルシウムを貼薬することが推奨されている。この治療において、歯根破折が頚部に近接している場合に、歯頸部への電流のリークが起きやすく根管長の測定が困難な場合がある。このような場合は、アジャスト方法をオートからマニュアルに変更して測定を行うことが推奨される。

 

2)エックス線写真を用いた根管長測定

 あらかじめ長さを測定したファイルやガッタパーチャポイントを根管内に挿入して、エックス線写真を撮影し、画像上の長さとの比率を用いて計算することで、根管長を算出する方法である。この方法は根管を直線的に測定するため、やや短めの値が出る危険性がある。ただし、電気的根管長測定により得られた根管長が、臨床に適切な範囲か否かを確認するために有効である。また、エックス線写真上に観察された硬組織の位置や性状、側枝や根側への根尖開口部の存在、歯根吸収、歯根破折などの診査が可能であり、電気的根管長測定により得られた値の意味について推察が可能となる。したがって、ガッタパーチャポイントやファイルを試適してのエックス線撮影は、電気根管長測定と併用すべきであろう。

 

 

表 歯根 吸収の臨床分類(宮新 1996 を改変)

①Ⅰ型歯根吸収   生活歯における歯根吸収で、深さ0.5 ㎜以下、歯髄炎や根尖性歯周炎を疑わせる所見がなく、2か月以上進行しない場合を指す。 水平歯根破折歯や軽度または中等度の脱臼歯などに観察されることがある。自然に吸収窩にセメント質様硬組織が添加して治癒 すると言われる。

②Ⅱ型歯根吸収  歯髄炎や歯髄壊死に伴って歯根内吸収を生じることがあり、いず れも抜髄または感染根管治療により阻止できることが多い。こ れらの歯根吸収が疑われた場 合は、デンタルエックス線写真の偏心投影やCBCT撮影によりなるべく短期間のうち外部吸収と判別 しなければならない。その他、後発する歯根内吸収として、象牙前質領域または根管充填材の外側を吸収するトンネル型歯根内 吸収があり、歯髄腔狭窄やⅣ型,Ⅴ型の歯根吸収との関連が疑われるが、本体が不明である。

画像所見で、1 ~2か月の間に歯根吸収が進行した場合は、抜髄または根管治療を行い、歯の喪失を阻止する必要がある。トン ネル型吸収に対してはⅣ型,Ⅴ型の歯根吸収同様の外科的対応も考慮する。

③Ⅲ型歯根吸収  歯髄炎や歯髄壊死に伴って歯根外吸収を生じたもので、抜髄 または根管治療により阻止できることが多い。 画像所見で歯根吸 収の進行を認め、かつ歯髄炎や歯髄感染の疑いがある場合は抜髄し、歯の喪失を阻止する必要がある。 約2か月で歯の大半を 喪失する場合があるほか、 歯髄壊死が放置された歯には進行性歯根吸収やⅣ型歯根吸収となる危険性がある。画像所見で1~2 か月内に歯根吸収の進行を認めた場合は、軽度の歯髄炎や歯髄感染の疑いがあるだけでも抜髄し、歯の喪失を阻止する ために 必要な場合がある。歯内療法開始後は歯根吸収の進行が止まり、吸収されていた骨や歯根のX線透過像が改善することが多い。

 ④Ⅳ型歯根吸収  低位化を伴わないが、歯内療法を行っても進行が停止しない 進行性歯根吸収。歯頸部侵襲性歯根吸収などの形で遅発する危 険性がある。 受傷後1年以後も遅発する危険性があることは、受傷歯は年単位で長期的に定期診査を受けることが望ましいとされ る理由になっている 。動物における実験的脱臼においても、歯頸部に軽度の歯根吸収が長期にわたり観察されていることから、歯根吸収の機序の解明が待たれる。

吸収が急速な場合は、断層撮影、CBCT 等により位置と骨の状態を確認したのち、外科的歯内療法で吸収窩を掻把したり、さら に吸収窩を接着性レジンで充填することで進行が阻止できる場合がある。しかし、歯根吸収歯の病理については未だ不明な点が 多く、歯根吸収を進行させないために も、受傷歯を初期対応において愛護的に扱うことと、術後の経過管理を適切に行い、歯髄の 異常を放置することなく発見し、診断すると共に、 歯内療法を遅滞なく実施することが欠かせない。

⑤Ⅴ型歯根吸収

  低位化と辺縁骨喪失を特徴とする進行性吸収。 歯髄の生死、炎症の有無に関係なく、正常歯髄を有する歯にも生じる ため、歯周組織の損傷に起因すると推察されている。低位化 には一過性のものと、継続性のものがあり、1 年程度で低位化が解消し、低位にあ った歯が元の咬合を回復する場合もある。 もし、吸収が進んで歯槽骨と歯 根が置換される経過を取る場合は、歯槽骨保存の意義があるため、当該歯は保存し、経過観察 する。また、低位化が進行し、隣在歯も低位化や対咬歯の挺出など、咬合に悪影響を与える場合は、抜歯と矯正治療が選択され るが、このような問題が生じない場合は、未成年では低位化した歯冠にコンポジットレジン修復を行い、審美的な改善を試みる。Ⅴ型の歯根吸収に対しては、部位が一部的で特定できれば外科的歯内療法で吸収窩を掻把したり、さらに吸収窩を接着性レジンで 充填することで進行が阻止できる場合がある 。この型の歯根吸収は、脱落再植や陥入症例に認められるという特徴があることから、受傷歯を初期対応において愛護的に扱う必要があるだけでなく、受傷歯が陥入を併発していないか、 受傷当初に検出し ておくことが早期発見の可能性を高める 。

 

8.小児の歯内療法の術式  

 

Ⅰ.暫間的間接覆髄法 GCRP(Gross Caries Removal Procedure)  

  象牙質を完全に除去すると、露髄する可能性が高い乳歯や、幼若永久歯に対して、歯髄の旺盛な修復象牙質の形成を期待して、段階的経時的に歯髄の保護を図る暫間的歯髄処置である。

  術式: 

1)除痛

2)ラパーダム防湿、歯面の清掃

3)ウ窩の開拡、

軟化象牙質を残した後、インピーダンス14KΩ以上(APIT値6.5以下)

4) 水酸化カルシウム製剤で間接覆髄法を行い、次回6週-3カ月後に再診査し、覆髄剤を交換する。その時点まで十分な封鎖性と耐久性のある修復方法を選択すること。

異常所見がなく、覆髄面の電気抵抗値が象牙質窩洞の値になった時点で、軟化象牙質を完全に除去して修復を終了する。

 

Ⅱ.生活断髄法  (Vital Pulpotomy)

 

冠部歯髄に限局した病的組織を除去し、歯根部に残留する生活歯髄を切断し、糊剤で被覆、これを治癒保存させる方法である。

1.水酸化カルシウム

 術式

 1)除痛

 2)ラパーダム防湿、歯面の清掃

 3)ウ窩の開拡、感染歯質除去

 4)天蓋除去; 露髄点を連ねて、天蓋はなるべく一塊として除去し、髄角も除去する。

            術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

 5)歯冠部歯髄除去、切断; 滅菌ラウンドバー(#4~6)を逆回転させ、歯冠部歯髄をかきあげながら、歯髄を切断6)切断面の修正; バーを正回転に改め、根管口の歯髄切断面を整え、生理食塩水で十分洗浄し、吸引と綿球で 

   水分を除去

断髄面からの出血が鮮紅色で、洗浄後に瞬時歯髄が見えてから出血で覆われるものが適応症。

(断髄面からの出血が暗赤色で多い場合は抜髄。歯根吸収が明瞭であればFS法または抜歯)

7)水酸化カルシウムと滅菌水を滅菌練板上で練り、歯髄切断面に貼付する。 髄床底全体を覆う。 

8)グラスアイオノマーセメントを充填する

9)臼歯はアンレーまたは被覆冠、前歯はレジン修復を行う。

10)経過観察   1週以内に診査。3か月以内にエックス線診査で内部吸収、歯根吸収に注意。

冷水痛の持続、温水痛、打診痛、咬合違和感、電気診反応陰性は不良所見。

 

 

2,

 

FS; 硫酸第二鉄貼布法。乳歯に適用れ、成績がFC法と同等。生体親和性、操作性等に欠点がない。

 術式

1)除痛、歯面の清掃、ラパーダム防湿、

2)ウ窩の開拡、感染歯質除去、天蓋除去;術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

3)歯冠部歯髄除去、切断; 滅菌ラウンドバー(#4~)を逆回転させ、生理食塩水注水下で歯冠部歯髄をかきあげ歯髄を切断する。

4)バーを正回転に改め、根管口の歯髄切断面を整え、生理食塩水で十分洗浄し、吸引と綿球で水分を除去する。瞬時歯髄が見えてから鮮血で覆われたら適応症。

5) 15.5%硫酸第二鉄(アストリンゼント®)を1分適用して生理食塩水で洗浄し、吸引と綿球で水分を除く。

6)  酸化亜鉛ユージノール糊剤を歯髄切断面に貼付し、 髄床底全体を覆う。 

7) グラスアイオノマーセメントを充填する

8) 臼歯はアンレーまたは被覆冠、前歯はレジン修復を行う。

9) 経過観察  1週以内に診査。3か月以内にエックス線診査で内部吸収、歯根吸収に注意。

冷水痛の持続、温水痛、打診痛、咬合違和感、電気診反応陰性は不良所見。

 

 

Ⅲ.乳歯の抜髄

術式

 1)除痛

 2)ラバーダム防湿、歯面の清掃

 3)ウ窩の開拡、感染歯質除去

 4)天蓋除去,髄室清掃

    髄角の除去、術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

    根管上部形成  #35ファイルで直線部を形成、ダイアモンドバー、バットコーンパー

  根管長測定; 電気的根管長測定: APITで WL・X線写真を参考に,

# 15ファイル 

5) 洗浄; 生埋的食塩水

   乾燥; バキューム+洗浄針、ペーパーポイント

6) 根管形成、根管長の訂正

  ①lnitial Apical File(IAF);軽い抵抗感を伴い根尖へ到達するファイル をみいだす。

  ②根尖孔拡大; 基準は、 IAFの2段階太いファイル Master Apical File(MAF)まで

7)貼薬・仮封;Ca(OH)(飽和水溶液で可)やヨードチンキ                 

 

8)抜髄2回目

  ①Step Back Preparation;MAFより1段階太いファイルで1mm短く根管形成

          洗浄水を満たした中で IAFでファイリング(Apical clearing)

  ②根管長の再確認

③根管の滑沢化

9)根管充填

   根充可能な指標:急性症状の消退、根管の乾燥が可能であること

根管充填剤:酸化亜鉛ユージノール製剤(キャナルス)

  レンツロ(またはコンデンサー)は作業長マイナス2mmで低速回転10秒。

マイナス3mmで低速回転10秒。

あとはゆっくり引き上げて糊剤をならす。

  仮封、 X線写真撮影

10)予後判定

   1週間後、特に症状がなく、臨床所見の改善があれば修復処置を行う。

   2-3カ月後X線診査X線所見の悪化がある場合は抜歯を検討する。

   以後、3-6カ月毎にX線検査を継続する。

 

 

Ⅳ.乳歯の感染根管治療

術式

1)除痛(残髄ならびにラバーダムに麻酔を要するとき)

 2)ラバーダム防湿、歯面の清掃

 3)ウ窩の開拡、感染歯質除去

 4)天蓋除去,髄室清掃

    髄角の除去、術野の消毒(ヨードチンキ+アルコール)

    根管上部形成  #35ファイルで直線部を形成、ダイアモンドバー、バットコーンパー

  根管長測定;  電気的根管長測定: APITで WL・X線写真を参考に,

# 15ファイルで

洗浄は生埋的食塩水

    吸引乾燥;バキューム+洗浄針、ペーパーポイント

5)貼薬;CMCPまたはメトコール

2重仮封

 

6)根管治療2回目以後

根管形成

  ①lnitial Apical File(IAF);軽い抵抗感を伴い根尖へ到達するファイル をみいだす。

  ②根尖孔拡大; 基準は、 IAFの2段階太いファイル Master Apical File(MAF)まで

③Step Back Preparation;MAFより1段階太いファイルで1㎜短く根管形成

          その後、洗浄水を満たした中で IAFでファイリング(Apical clearing)

  ④根管長の再確認

⑤根管の滑沢化

 

7)2回目以後の貼薬;Ca(OH)(飽和水溶液で可)                 

 

8)根管充填は抜髄と同様。 

9)予後判定

   1週間後、特に症状がなく、臨床所見の改善があれば修復処置を行う。

   2-3か月後X線診査。 X線所見の改善が見られない場合は抜歯を検討する。

   以後、3-6か月毎にX線検査を継続する。

 

Ⅴ Apexificationから根管充填

Apexification とは、歯根未完成歯が全部性歯髄炎や歯髄壊死により、根管治療の適応となった場合、ガッタパーチャによる根管充填に先立ち、水酸化カルシウム糊剤を暫間的に根管充填することを繰り返して、根尖部に硬組織形成を促し、これによって根尖部の閉鎖をはかることである。歯髄炎、歯髄感染に伴う歯根吸収や、歯根水平破折歯の歯冠側破折片の歯髄壊死などにも適用される。

術式

1)除痛   歯髄炎といった炎症を有する歯においては麻酔が奏功しにくい。電気歯髄診によって、麻酔が奏功したことを確認してからの切削を勧める。無痛治療下では小児の協力が得やすい。瘻孔を有する歯でも、歯髄の少なくとも一部は、感覚が残存していることは稀でないため、その場合は局所麻酔を応用する。

2)歯面の清掃、ラバーダム防湿

根未完成歯は萌出程度も不十分で、クランプを装着しにくいことがある。より後方の隣在歯に装着して、患歯をフロスで結紮するか、当該歯に接着性レジンと光重合コンポジットレジン等で小突起を作り装着する。 

3)軟化象牙質の除去  う窩の軟化象牙質を除去し、感染歯質を取り除く。

4)天蓋除去、髄室清掃

 髄角を除去する。アンダーカットは除去するが、元々薄い歯質であるため、最低限の除去にとどめる(図4)。

(1)術野の消毒(ラバーダム上をヨードチンキとアルコールを用いて消毒)

(2)根管上部形成  ;ダイアモンドバーやバットコーンバー:#35ファイルで直線部を形成

5)根管長測定

(1)電気的根管長測定:# 15ファイルとAPIT15

(2)エックス線診査;術前のエックス線写真の撮影の際に、歯冠にX線造影性を有する指標(ガッタパーチャポイント等、長さをあらかじめ測定したもの)を貼りつけて撮影する。または、根管形成に際してファイルやガッタパーチャポイントを根管内に試摘して、エックス線撮影を行う。

(3)管内を触知した際の感覚を参考にする(根管壁の連続性や柔らかさ等)

(4)患者の感覚を参考にする。(小児の歯髄は、一部に壊死があっても、それ以外の部分にふれると疼痛を訴えることが稀ではない。ただし、疼痛があったとしてもそれが健全組織であるとは判断できない。他の診査結果から総合的に診断する必要がある。また、残髄.穿孔,息肉(根尖から根管内に侵入した組織)等を鑑別する必要がある。)

 

6)洗浄:生埋的食塩水(次亜塩素酸ナトリウムは根尖外で腐骨形成をする危険性があり使わない)

水圧で根管内容物を根尖孔外へ出さないよう、滴下する程度の軽圧で洗浄を行う。

 乾燥:洗浄針を作業長の範囲で根管内に入れバキュームで吸引する。ペーパーポイントは、根尖部の出血や滲出液の診査や、根尖部閉鎖硬組織形成後の根管充填の直前に根管の乾燥をチェックする時点で使用する(根未完成歯の根管内に用いたペーパーポイントの線維が根尖孔外に出て肉芽腫を作ったとする報告がある)。

7)根管形成

(1)髄腔開拡:歯質が薄く柔らかいため必要最小限度にとどめる。

(2)lnitial Apical File(IAF):根尖へ到達する最も太いHファイルの号数を、おおよその根尖径の指標とするが、開大している場合は、触知はできない。実際は、♯70程度の径のファイルで、軽圧下での円周ファイリングを2周行うことを目安とし、根尖孔外への押し出しをしないように、歯髄を除去する。

(3)ファイルを1番手太くするたびに必ず洗浄と吸引を行う。

8)貼薬・仮封

水酸化カルシウムと滅菌水を体積比2対1で練和し、レンツロやコンデンサー(#35以上)で根管充填する。作業長-2㎜に挿入して低速回転(800~1000回転/分)、回転時間は20秒程度。

感染根管ではCMCP(カンファレーテドモノパラクロロフェノール)を使用。綿球につけて絞ったものを根管口に置く。市販の薬剤では、メトコール®の成分が類似した剤品である(グアヤコール・パラクロロフェノール)。二重仮封;水硬性セメントやストッピングに加え、光硬化型アイオノマーセメントまたはコンポジットレジンで2重仮封とし、咬合をチェックする。さらに臼歯部ではバンドを適合させ、セメント合着することで歯冠歯根破折を予防する。

9)治療間隔:次回治療は約1か月後に設定し、この際、根管内への浸出液が少ないことが確認できた場合は、その後の来院は3~4か月後とする。浸出液等による糊剤の着色やほとんどの水酸化カルシウムが消失していた場合は、1か月以内に再貼薬する。

 

10)2回目以後

(1)仮封の除去と貼薬の除去:仮封材および綿球を根管内の根尖側に落とさないように注意する。貼薬した水酸化カルシウムが消失していたり、浸出液や血液が根管を充たしている場合には、1か月以内に次回の治療を設定するが、歯根吸収の進行や穿孔、側枝などについても留意する必要がある。根管内の水酸化カルシウムの水分が少なくなっている場合は、根尖孔が閉鎖に近づいていることを示している。

(2)根管長の再確認:生理的食塩水を満たした状態で#15ファイルを用いて測定する。異物や目詰まり,穿孔の有無を確認する。

(3)根管の滑沢化:根管内に生理的食塩水を充たし、IAF(最低#70)を用いて軽圧下にて内壁を滑沢にする。 

(4)根管充填の時期にについて:急性症状がなく、根管内の乾燥が得られ、根尖にガッタパーチャを支えるに適した硬組織が触知された場合は、ファイルまたはガッタパーチャポイントを試適してエックス線写真撮影を行い、作業長の決定と根尖部の確認を行ってから根管充填に移る。これらが達成されるまでは、水酸化カルシウム-水糊剤の貼薬・二重仮封により、3~4か月毎に同様に治療する。

(5)根管充填法:側方加圧根管充填法に際しては、太いガッタパーチャポイントを作って用いる。根充には接着性レジンシーラー(メタシールSoftペースト)とフィンガースプレッダー(MANI)とアクセサリーポイントを用いる。根尖開口部の直径が0.4㎜(ファイル#40)より小さいときは、垂直加圧根管充填法も適用可能である。

 

11)仮封:光重合型アイオノマーセメント、コンポジットレジン等

12)X線写真撮影

13)歯冠修復

(1)臼歯部

咬頭被覆型の修復を行う(アンレーまたは全部被覆冠)。歯質崩壊の著しい臼歯においては、バンドを装着してこれを隔壁とする。さらに、歯内療法後も、バンドを装着したまま、歯髄腔は接着性レジンで接着して、コンポジットレジン充填を行うことができる。ただし、バンドは6か月ごとに外して歯を清掃し、歯にフッ素を塗布して、再度装着して第二大臼歯の咬合が完成するまで管理を継続したあと、アンレーまたは全部冠修復を行う。

(2)前歯部

アクセス窩洞に対しては、コンポジットレジン充填が用いられてきたが、歯冠歯根破折が多いため、適切な材料選択が必要である。修復方法を検討した結果、接着性レジンとコンポジットレジンの適切な組み合わせが報告されている。接着性レジンはスーパーボンドC&B(サンメディカル)を用いる。また付与する咬合は、アクセス窩洞内に充填したコンポジットレジンには咬合接触させない方が破折しにくい。6か月毎に咬合の診査と調整を行う。充填部の経年劣化があるので、数年に1度は再充填処置を行う。

 

 

文献

  • 宮新美智世,江橋美穂.歯の発育異常と歯髄保存.日本歯内療法学会雑誌 23:154‐166, 2007
  • 須田英明ら編、幼若永久歯の歯内療法学-基礎と臨床, クインテッセンス出版, 1997,P22,23
  • 松村木綿子,宮新美智世,舩山研二,江橋美穂,片野尚子,高木裕三. 外傷により埋入した乳歯の再萌出と,その長期的臨床経過. 歯科臨床研究 2 (2): 75-89, 2005
  • 宮新美智世,松村木綿子,石川雅章: 外傷を受けた幼若永久歯の予後に関する研究—歯髄切断法の長期的予後について—,小児歯誌32:987-994,1994
  • 宮新美智世,片野尚子,菊池小百合,松村木綿子,江橋美穂,竹中史子,桔梗知明,橋本吉明,石川雅章,高木裕三,小野博志:幼若永久歯の歯根吸収に関する臨床的研究.小児歯誌34:1215-1225,1996
  • 宮新美智世,マ ニュンニュン,高倉レイラ史子,高木裕三. 外科的歯内療法—外傷を受けた幼若永久歯への応用—. 日外傷歯誌 1 (1): 30-38,2005
  • 柿野聡子. 透過型光電脈波法による小児期外傷歯の歯髄血流測定. 小児歯科学雑誌48(4):489-494,2010
  • 宮新 美智世、片野尚子、松村木綿子、江橋美穂、高木裕三、小林千尋:歯根未完成歯の歯内治療に関する研究-根管長測定について、第35回日本小児歯科学会大会、小児歯誌 35:304,1997
  • Miyashin、 Determination of H-file sizes being more suitable for measuring of working length in immature teeth using an EAL. Pediatr Dent J, 24:53-57,2014
  • 山岡大、山本寛、田中正一、鈴木薫、永井敏、斎藤毅:根管長電子計測法の基礎的研究-(3)相対値法を用いた根管長計測器の試作‐.日歯保誌,28:293-294,1985
  • 宮新美智世,江橋美穂、高木裕三、小野博志、岩崎直彦、高橋英和、西村文夫: 象牙質接着システムとレジンによる修復が根管治療後の幼若永久歯の破折に与える影響に関する実験的研究、小児歯誌 36:777-789,1998
  • 村田周子,下川仁弥太,庄井香,宮新美智世.歯根膜細胞に対する脱落歯保存液の影響,小児歯誌 52:62−68,2014

保母さん・看護師さんからいただいたご質問とお返事

回答済

 

質問1

外傷後の消毒はどの位の期間必要でしょうか。歯科医師により1週間や2週間とばらつきがあります。外傷の程度によって変わるのか教えていただきたいです。

質問2

受傷後、歯の色が変わるというのは歯のどこかが折れていたりするためでしょうか。色が悪くなった場合は元に戻りますか。

質問3

やはり子どもの歯を見てもらう際には、小児歯科の方が良いのでしょうか?

質問4

転倒で前歯が陥入した場合、その後永久歯の生え変わりの時に、乳歯の脱落(抜ける)のは難航しますか。ぐらついているのに、なかなか抜け落ちてこないため、外傷による陥入が影響しているせいでしょうか。歯科医院へ受診し、抜歯してもらうなど相談したほうがよいのでしょうか。またその後の永久歯が変な位置に生えてきたり、向きが曲がって生えてきたりなどのリスクもあるとお話がありましたが、それに対しての治療方法はあるのでしょうか。

質問5

以前歯のかけがとても小さく薄い部分なのでレジン修復してもまたすぐ欠けるから必要無と言われた事例があったのですが、そういったことありますか。技術の問題でしょうか。歯の層のレベルでしょうか。

質問6

咬傷は当日内に受診(Q&Aより)とのことですが、120名の園児を預かっており1日平均3~5件噛みつきが発生しています。全て受診となると現実的ではないように感じてしまいます。(噛みつかせない保育の検討は勿論ですが…)

質問7

受傷直後に動揺ありと感じ受診しても、歯科では問題なしと言われることがあります。特に1才児にこういったことが多いように感じているのですが、生えて間もない乳歯は揺れやすいなどありますでしょうか。

未回答

 

質問8

歯根破折:ぐらつきもなく、痛がる様子がなくても歯を受傷したら病院へ受診をした方がいいのでしょうか。

質問9

上唇小帯が切れた場合、歯にぐらつきが無くても必ず保育園で受診が必要でしょうか。ご連絡はして保育を続けお迎え時様子見て下さいと伝える対応でも良いでしょうか。

質問10

自分で転び前歯を脱臼し結果麻酔をして前歯上二本を抜きました。前歯を折るお子さんが多いのは何故ですか。

質問11

歯髄が死ぬと永久歯にはどのような影響がありますか。

質問12

怪我とは関係ないのですが、2歳児の反対咬合は、早めに受診をしたほうがよろしいのでしょうか。

質問13

前歯がすきっ歯で心配と相談を受けることがあります。見ると上唇小帯が少し大きいようにも見えます。歯科で相談を促しましたが、上唇小帯が大きい場合の影響や受診・治療の目安などありますでしょうか。

 

 

 

 

 

回答

回答

質問1-3 ぶつけて①歯と歯肉(歯茎)の境から出血がみられるとき、②歯にヒビや割れたかな と思われる欠失が疑われた場合。受傷直後は歯の揺れもなく、出血すらない場合もあります。子どももビックリしていて痛みに気づかないような場合もあるようです。③見かけは何ともないと見えても、30分くらいたってからもう一度触ってみていたがるようなら受診です。歯のケガは反日から1日だつと最も痛くなります。園から帰宅したのちに痛くなったとか、食事中に歯で噛んでみて初めて痛みに気づいて子どもが泣き始めることがありえます。トラブル防止のためにも、帰宅する前には受診を済ませることはお勧めです。

歯と歯茎から血が出るほどの外力は、瞬間的にはかなり歯を傾けてしまうほどのケガをしているから生じるのです。唇や下の歯の働きで、すぐ元の位置に戻るので、歯がずれたことについて気が付くことは難しくなっています。

 

質問4 小帯が大きく切れても出血が数分で止まり、子どもが話すことに違和感がなければ傷は自然になおるでしょう。ただし、傷が消えるまでには数日かかりますので、熱い食物、冷たい食物はしみるでしょう。早く治したければ、氷をなめると唇の腫れがふせげます。幼くてむりなら、上唇から鼻下にかけて水を付けたタオルを当てるのも予防策になります。あてたり外したりを繰り返すのでも結構です。

10分ほどやってみて腫れてこなければ休んでいいでしょう。少し腫れ始めてからでも効果はでます。

質問5 嚙みついたときなら、かまれた子どもの傷を水道水の流水かシャワーで数分以上洗ったのち、当日内には外科に見せた方がよいでしょう。咬んだ方の児を責めることなく、行動が起きた機序については成人側が十分に配慮し対策する必要があります。

顔面を咬まれたのであれば、同じく流水で洗って、歯科または口腔外科を受診された方がよいと思います。犬による咬傷が危険なように、ヒトの咬傷も不潔です。跡を残さないためには初動が大切です。

 

質問6 、乳歯の場合は、歯をもとに戻してもよい条件(再植条件)が限られますので、歯を植えなおす(再植)のは主に永久歯を対象とすると考えてください。歯が落ちたり欠けたりしたとおもったときは、歯科医院にぜひ持参してください。

アレルギー素因が不明な児の抜けた歯(脱落歯)を牛乳に浸漬することはお勧めできません。

歯科医院にたどり着ける時間が1時間以内であれば、ラップでしっかりと空気を入れないように包むか、なければ薄いポリ袋でも可能です。常温で最適なのは、HBSS(+)(細胞保存液)で24時間歯を崩壊から守ります。牛乳や歯の保存液ティースキーパーネオはやや性能がおちます。

 

質問7 出血の止め方は一般的に圧迫が基本であることに、口腔内も変わりません。

子ども場合は、まず落ち着かせて、血圧を下げることが大切です。傷近くの圧迫止血など止血作業そのものが痛みを伴うので 得に幼児では困難でしょう。口の出血は唾液に混じることが有り、多量に見えやすい傾向があります。しかし、小児のケガで口内が出血した際に、よほど深く舌や唇を切断しない限りは、多量の出血になるリスクは低いので、血液を飲まないような工夫をすることを意識することをお勧めします。血液を飲むと1時間程経過後に嘔吐を誘発するといわれます。。特に、治療中に嘔吐しますと、嘔吐物が逆に気道に入ってしまうなどの危険性があるからです。血液と唾液が混じったものが、飲み込まれないようにするには、口元の痛くなさそうな部位で大きめのガーゼやタオルなどをくわえさせることです。

さらに歯は、上下の反対側の歯にあたる場合があり、止血しにくい場合があります。結局、止血が悪いなら傷が深いか範囲が広いことを意味するので、早めの受診が必要です。

 

質問8    歯根破折は受傷当初はぐらつきもなく、本人は痛がる様子がない場合があります。また、歯根破折には歯の周りの骨の骨折を伴う確率も高いものです。ただし、歯が損傷を受けた場合の痛みの有無を正確に判断するためには基準があるので、歯科医療者に診査させて、外傷を受けた歯なのか、抜け代わりが近くて揺れている乳歯なのかなどの相違を判断してもらうことが望ましいです。見かけでわかる部分は、歯肉と歯の境目の出血だと申し上げましたが、ちょっと見て見える出血はかなりひどい損傷を意味しており、損傷の詳細を正確に診断するためには数時間以内に歯科医師が見るのが最も正確な結果を得ることが出来ます。受診しないで判断できそうな兆候は、半日以後に痛くなり、揺れも歯ぐきや口唇の腫れあがるというものでしょう。歯根破折は、受傷後1週間以内に発見して治療を受けることが出来ると望ましい治り方が可能なので、保護者と受傷状況についての情報を共有して、口腔清掃を続け、数日中に歯科での検査を推奨することをお勧めします。

 

質問9   

歯のぐらつきについては、正常か異常かの判断は年齢と個性に応じた正確な診査を要するので、歯科を受診して診断してもらう必要があります。

保育園が受診させるのか、保護者が受診させるのかについては、当方はどのような取り決めでおられるのか状況がわからないためお答えができません。

「保護者が様子をみて」もわからない損傷が隠れているリスクがあり、安心はできません。質問8への回答や、お渡ししたアジェンダもご覧ください。時間をかけて、歯科で観察しつづけてはじめて、外傷の影響は明瞭になることをお忘れなく。

外傷の状況についての情報を保護者と共有して、口腔清掃をホームケアとして続けることは必須であり、数日中に歯科での検査を推奨することがお勧めですが、強要することはできません。受診しなければ、肉眼で見えない損傷がもし存在した場合は、進行を阻止できないので、合併症の発症率が高まるのことが予想されます。

 

質問10  

脱臼についておかきでしたから、質問後半は、前歯をケガする子が多いことの原因と解釈させていただきました。(もし、歯が折れる(破折)についてご質問なら、答えは、実は乳歯は見える破折(歯冠の破折)は比較的少ないことをお伝えします。揺れる(脱臼や歯根破折、歯冠歯根破折)の比率がやや高いです。)

 

歯のケガが起きる原因

0)幼児は頭が大きく、運動能力が未発達。

1)噛み合わせの不具合、出っ歯、開咬、口呼吸、鼻閉、鼻炎、口唇閉鎖不全

2)むし歯・ 歯周病

3)硬いものの食べる

4)外傷

   筋力低下・バランス感覚の低下・認知機能の低下・小脳障害

   喉頭鏡使用時

体調のコンディショニング-食事・運動・休養・睡眠の質的量的不足

5)歯ぎしり 

6)環境的な問題

7)安全教育不足-成人も小児自身も、危険の実態を学ぶ必要あり。

         精神散漫で粗野な行動パターンを改める(静謐を教える・静かな環境をつくる)

         外傷の処置・救急対応法を身に着ける

 

質問11   アジェンダにも書きましたが、乳歯の外傷が永久歯に与える影響とほぼ同じ害をもたらします。歯髄が死ぬと歯髄に細菌感染と炎症がおき、それが永久歯側に及ぶので、成長中の永久歯の発育を障害して形成不全をおこしたり、時に永久歯が死んでしまうことがある。骨が侵されて歯並びが悪くなることもあります。

                

質問12   2歳未満の児の反対咬合は、80%以上自然に正常化しますので、4歳までは経過を観察します。

ただし、鼻疾患や口呼吸がある場合は、歯並びを悪くしているリスクがありますから、治療を受けておくことがお勧めです。お話が分かるようになる4歳くらいになっても、異常が残っていたら、歯科で診査をうけて、治療をいつ行うのが望ましいのか診断してもらいます。正確な診査診断も、このころから可能になります。

反対咬合の治療時期は特徴に応じて、幼児期に治療したほうが良いパターンと、永久歯が生えた後に治療するのが有利なパターンの2つががあるので、その点を歯科で判断してもらうことがお勧めです。つまり、全ての歯並びの問題が、幼い時期に始めることが良いとは言えないのです。つまり、矯正治療のすべてにおいて、「早期治療が有利だ・良い」とは断定できません。歯並びの治療は、一生のうちいつでも受けることができますし、手遅れは在りません。治療に要する時間も負担も個人ごと、年齢ごとに様々なので、正確な診断をうけて、複数の治療計画の詳細を知って比較して、受験などのライフサイクルとの関係も考慮して、最もご本人と家族に適した時期と治療計画を選ぶのが良いでしょう。私費治療になるため保護者の経済的な都合もかかわってきます。本人が治療を受けたいとの要望が明瞭に確立し、経済的にも無理のないときに行うことを勧めます。特にご本人の理解と気持ちを大切にして、検討するのでよいかと思います。

 

質問13   乳歯や、生え始めの永久歯の前歯はすきっ歯であっても異常には入りません。発育中の幼児は前歯に隙間があるのも正常です。上唇小帯は幼少児であるほど、太く目立つ位置にありますが、これも正常な姿です。かつ、歯の隙間が空く原因が小帯であると単純な断定はできません。たとえば、隙間がもともとあるので、小帯もそこに居座っていることもあるのです。永久歯前歯の上4枚が生える8~9歳くらいになって、歯の隙間を閉じるための歯並び治療が開始される患者さんにおいては、小帯を移動させる(小帯切除)が行われることもあります。小帯切除だけで、歯の隙間が消失するわけでもないようですので、お気を付けください。小帯以外にも歯の隙間を開けてしまう原因が存在しているばあいもありますので、歯の隙間について歯科に相談されることは特に問題はありません。上唇小帯が大きくみえることそのものは何の問題もありません。仕上げ歯みがきの時に傷つけないように大人は気を付けてあげてください。

 

◎ 追加で頂いたご質問への回答

①脱落した歯が汚れていた場合は、どのように取り扱うと良いか?また、再生率はどの程度か?
②ティースキーパーの使用有無での、その後の経過にどの程度の差があるのか?

 

A 歯が抜け落ちた場合の対応のご質問としてまとめてお答えします。

歯には乳歯と永久歯があり、一般的に永久歯が抜けた場合は極力急いて元に戻します。これを再植と言います。乳歯の場合は、乳歯の周りで永久歯の芽(歯胚)が育っていますので、一度抜けてしまった乳歯をもとに戻してもよい条件(再植条件)が限られます。したがって、再植は永久歯を対象とすると考えてください。乳歯の場合は普通、再植を行うと永久歯の歯胚を痛めるリスクがあるので、再植をおこなわず、永久歯が無事はえるまで経過観察をおこなうか、必要であれば小児用義歯(保隙装置)を装着させます。

歯が落ちたり欠けたりしたとおもったときは、その歯もしくは歯と思われるかけらを歯科医院に持参してください。持参された歯の様子と、お子さんの口のエックス線所見を参考に、歯を再植してもよいかを歯科医師が検討します。

その場合、ひとたび歯が元の位置からぬけたのであれば、必ず細菌や異物によって汚染しています。といって、これを何かで簡単に除去することは不可能です。例えば水道水であらうと、歯の根の周りの細胞を殺してしまって、再植が成功しません。再植が成功する要因としては、汚染を歯科受診までに取り除くよりも、抜けた歯をどう保存して歯科医院に持参するか、のほうが肝心であることがわかっています。抜けた歯を牛乳に漬けておくのが良いなどという情報を耳にした方もおられるかもしれません。しかし、食物アレルギーを持つ小児が少なくない現在、牛乳を推奨することは注意を要します。もし、歯科医院にたどり着ける時間が1時間以内であれば、ラップ(なければ薄いポリ袋など)でぴっちり、空気を入れないように包んで持参してもよいと言われています。最適なのは、すぐ歯を元の位置に植えることですが、それができない場合は、HBSS(+)(Hanks’ balanced salt solution, 細胞保存用平衡緩衝液)溶液中であれば常温下で24時間、歯は抜けたて近い状態が保たれます。ついで、牛乳や歯の保存液ティースキーパーネオは冷蔵で12時間ほど保てます。なお、ご心配のおおい、歯が汚染されている点については、歯科医師が判断の上、より安全な剤品(HBSSなど)で洗浄いたします。

再植した後の経過への影響としては、上記のような推奨される対応を行えた場合、追加治療を適切に受けることができれば、ほぼ戻通りに一生機能することもできます。成功率を下げるのは、抜けた後に歯が乾燥したり薬剤に触れた場合や、抜けるときの機序が歯と周囲の組織に強いダメージ(骨折など)を与えた場合などです。たとえば、再植後の歯の寿命は乾燥時間が長くなるほど不利になり、抜けた歯の保存状態が不適切だと再植しても歯が生着すらしないという結果になります。

 

③ころんで歯をぶつけ、歯茎から血が出たり、上唇小帯から血が出た場合、歯の動揺がなくても必ず歯科に通院しています。保育園として、この対応で良いでしょうか?

④上唇小帯が切れた場合でも、一応受診しているが(歯のぐらつきが無いか等の確認のため)本来、上唇小帯が切れた場合は受診の必要性がないのか?

⑤上唇小帯が切れたり、歯茎から少量出血することがあるが、歯のぐらつきがなかったら受診が必要ないのか?

 

A 上唇小帯裂傷へのご質問としてまとめてお答えします。

  上唇小帯裂傷そのものは軽度に見えても、歯も同時に受傷している場合があり、ダメージの実態は肉眼的な歯の揺れや出血から判断できない者を含んでいるため、当日でなくても、可能なら数日内の受診をお勧めします。特に歯根が折れている場合は、歯科医院でX線診査を受けないと検出できませんし、次第に痛み出す性質の損傷であり、歯の生存に関わる損傷です。そのうえ、そもそも人は、最も痛い部位のことに気がむいて、それより痛みが軽い部分について意識できない場合があります。

上唇小帯裂傷は頻度が高いですが、たとえ小帯が大きく切れても出血時間はあまり長くないでしょう。ただし、本人が興奮していると唇もうごくことから、出血が遅延しますが、大きな血管はない部位なので、出血があるように見える場合も、唾液に血液が混じって出血に見えている場合もあります。まずは落ち着かせてあげましょう。傷だけに関しては数日で傷も浅くなりますが、当日は、熱い食物が染みたりするでしょうから、体温に近い食物が良いでしょう。鼻の下がはれる場合がありますから、上唇から鼻下にかけて水を付けたタオルを当てるのも予防策になります。あてたり外したりを繰り返すのでも結構です。ただし、「冷えピタ」類は冷却には至りませんし、アイスノン等の温度は低すぎます。10分ほどやってみて腫れてこなければ休んでいいでしょう。少し腫れ始めてからでも効果はでます。口内の傷は一般的に、氷をなめると腫れをふせげます。大人の噛み傷にも有効です。

 

 

⑥転倒などして歯が折れてしまった場合、どのような処置をするのが正しいのか(圧迫止血して、患部観察以外で)
また、折れた歯は、どのような状態にして、歯科クリニックに持っていけば良いのか(何か液体につけるのか、そのままの状態か)

 

全身に他により重度の損傷がないか、ご本人がぐたっとなっていないかをまず観察してください。その上で、口の中に異物がないか観察してください。異物がもしとりだせないと思ったら、慌てずに子どもを落ち着かせて、可能であれば大きめのガーゼやタオルなどを痛くなさそうな口角あたりでくわえさせてください。異物や血液を飲ませないためと、本人が出血を実感することをへらせて、精神的パニックをさけることができるからです。子どもが落ち着けないとすれば、痛みや問題が大きいことを意味するので受診を急ぐことがお勧めです。

歯のかけらなどがあれば拾って歯科医師に見せましょう。かけらだと思われる場合は、水道水を少しつけてポリ袋などに入れてご持参ください。2時間程度なら、水をつけなくてもほどんど問題はないと思います。ただし、もし歯全体が抜けている感じがしたら、上記の質問①②歯の脱落の際の保存のしかたに従ってください。何事でも迷う点は、まず歯科医院に電話をして、問い合わせるのもよいと思います。

現場の写真や本人の受傷部位をスマホやカメラで撮影しておくのは、のちに役に立つ可能性があります。事故の時間や現場の様子や、ケガに至った経緯などは教えていただきたく、損傷の機序を知る参考になります。またケガした部位は、受傷後時間が立っていない場合は、かえって診断できない損傷があり、これらは時間とともにいたみがでたり腫れる、内出血をおこすなどの変化でようやく把握されることがありますから、1日後すくなくとも1週間以内には、再度受診して受傷領域を検査してもらうことを勧めます。痛いのは受傷直後とは限りません。半日以上たってから急性炎症は強くなります。直後は痛くないとこたえていても、夕食時や夜間に、痛いと気づく場合があるのです。

 

⑦口腔内の出血がなかなか止まらない場合どうしたら良いか

 

出血の止め方は一般的に圧迫が基本であることに、口腔内も変わりません。

子ども場合は、まず落ち着かせて、血圧を下げることが大切です。本人が興奮していると唇もうごくことから、出血が遅延しますが、唇の中心部や舌下以外は大きな血管が少ない領域なので、出血があるように見える場合も、唾液に血液が混じって出血に見えている場合もあります。まずは落ち着かせてあげましょう。血を見て興奮する子もいるので、飲み込まないだけの長さのあるガーゼや小タオルを、ケガをしていない部位があったらその部分で、おしゃぶりみたいくわえさせておくのも一つです。これには、異物をのみこんだり、血液を飲まないような効果もあります。血液を飲むと1時間程経過後に嘔吐を誘発するといわれます。特に、外傷治療中に嘔吐しますと、嘔吐物が逆に気道に入ってしまうなどの危険性があるので医療者側からはさけてもらいたいのです。

そのほか、歯は脱臼してずれてしまっており、上下の反対側の歯にあたる場合があり、この場合は当たるたびに出血するので血が止まりにくいです。

 冷たい水をつけたタオルを薄いポリ袋に入れてあてるなど、冷シップは止血効果も期待できます。「ひやピタ」類は温度的に冷やす効果は期待できないので、気分的な紛らわし程度と考えます。拍動性や吹きあがる出血の場合は、とにかく圧迫のうえ、救急車を読んで口腔外科への搬送を依頼します。

 

 

 

 

 

 

 

 

子どもの歯と口のケガ  これで安心!

子どもの歯と口のケガ 

これで安心!

                                                   

 もし、転んで前歯が欠けたりが無かったら、かっこ悪くてもうパニック。ましてや、痛くて噛めないとせっかくのおやつとご馳走も楽しめません。こんなことが急に起きたら、どうしたらいいのでしょう。痛みが取れて、より良く治るための応急対応とホームケアをお伝えします。

1 歯のケガって何?

歯をケガすると →咬めない(機能障害)、 痛い(疼痛)、 見た目が悪い(審美性)

(1)歯科を受診するまえにまず見ましょう

脳外科受診が優先する様子: 顔色、歩き方、目の動きの異常、発熱、吐き気、頭痛、食欲低下、鼻水や鼻血の持続、顔が青い、記憶喪失、意識喪失

眼科へ  : 目の動き異常、パンダの目、見えにくい

小児科へ: 顔が青い、体温の異常、腹部・胸部の痛み、発熱、食欲低下、乏尿、外傷性神経症

これらがなければ歯科受診かな? 歯が揺れたり 歯ぐきから血がにじんだり、触ると痛いときはまず電話

(2)記録を取りましょう

場所、状況、時刻など(写真撮影はできたら強く勧めます)

 

2 応急処置はどうしたら?  治療でどうなっていく?

受診の際の処置:けがの状態によって異なる(緊急度・重要度をよむ)

Golden time(経過良好な処置が可能な時間): 当日内の受診が望ましい

安心して食事ができることが回復の源 : 歯の位置の改善、破折部の被覆、固定、感染予防

*乳歯のケガ  →後継永久歯の形成不全、萌出異常の監視

*永久歯のケガ→若い歯の発育能力の保存、喪失の防止と補償

(1)脱落 -緊急度は高い すぐ対応しよう!

よい保存、 すみやかな再植で予後良好(児童は60分以内で歯髄保存20%以上)

注意! 治療後の歯根吸収、 骨吸収、喪失あり

<応急処置>

抜けた歯は乾燥しないように保存、急いで歯科医院へ

保存方法: ラップ(1時間まで) ミルク、ティ-スキーパーネオTM(冷蔵で12時間まで)

HBSS()(和光富士フィルム等)で48時間ほど常温下で良い状態を保てる。

大きい子なら歯を元の位置に戻して受診するのもよい(後で歯科医師が直します)

<治療>

再植して固定して 生着をはかる。歯内治療が必要になる場合もある。

(2) ゆれる、かむと痛い

受診の目安:歯と歯肉からの境界から出血する場合、かむと痛い場合

 (脱臼、歯根破折、歯冠-歯根破折、歯槽骨骨折の可能性あり)

注意! 状態の判別には2週間以上を要することがある 

早く治療を受けたほうが痛くなく安心して食事をとることができます。

<応急処置>

歯を飲み込まないように気をつけて歯科医院へ

<治療>

脱臼、歯根破折、歯冠-歯根破折:元に戻して固定(3日以内が望ましい)

乳歯の陥入:清掃をすれば再びはえることが多い(埋入した方向によっては元に戻して固定)

(3) 破折

<応急処置>

破片は水に浸けておく、1日以内に歯科医院へ

<治療>

破折部の被覆、露髄は部分歯髄切断(1週間以内)、亀裂はレジン被覆

→自分の歯もしくはレジン修復へ( 打診痛が消えるまでは仮修復)

(4) 切れた (口唇、小帯、 歯肉、 粘膜)

<応急処置>

清潔なガーゼ等で圧迫止血、

腫れを防ぐためできるだけ早く氷で30分冷やす、腫れてからは水とタオルで冷やす、

長いものは引抜かない

<治療>

外傷性刺青の予防、開いた傷は縫う(成長後に形成治療の可能性あり)、感染創は開放創にする、

wet dressing

*ホームケア*

清掃は、含嗽薬 や 緑茶(ほぐした綿棒や歯ブラシで掃除、うがい)

「仕上げはお母さん」の復活・ 甘い食物を減らし、バランスよい栄養と、睡眠

ケガは適切な対応で治せます。 応急処置とお手入れが大変有効です”

 

 3 損傷の治癒過程 治療

1時間  唇の腫張、 急性炎症の開始 →止血、冷罨法、脱落歯の保存

1日目  歯肉の出血や内部出血、 唇の腫れ→破折の被覆

歯の変色(歯の内出血によるもの、後に消えることがある)

“感染しやすい2日間は、傷を良く洗いましょう。軽度の発熱があります(37度台)”

3日目  傷の最表層が治る

1週間  粘膜、 歯肉が治癒する

2週間  X線写真上で歯根破折や歯槽骨吸収が確認できる→これらがなく、動揺がなければ固定終了

埋入乳歯は再び萌える。皮膚や粘膜の内出血は消える。

1月目  X線写真上で歯根吸収が観察され始める。→歯髄の検査を行う

2か月  歯髄の生死が確認できる。 →炎症や歯髄壊死の場合は歯内療法(歯髄の治療)

骨折の治癒・根尖性歯周炎の明瞭化

3か月  歯根の破折部が治りはじめる。歯髄の石灰化がおきる場合あり(1年以内)

6か月  歯髄壊死、歯根吸収の多くが発見される

1年    定期管理必要期間。 異常所見のほとんどが発見される

5年    歯髄の保存治療を受けた場合は、定期診査を続ける

     乳歯の外傷は後継ぎの永久歯が生え変わるまで、 最低年2回定期検査を受けましょう”

 

けがの影響

“おくれて合併症がでるため、最低1年間の定期診査を受けましょう”

*歯冠の変色    :歯髄壊死の合併は60% 定期診査下におく

*軟組織の瘢痕化 :唇は数ヶ月で一度腫脹あり

*歯根吸収      :歯髄壊死や骨性癒着に併う。放置症例に進行型

*歯槽骨の吸収と再構成(10日~5週以内)

*亀裂による歯髄炎:目で見える亀裂は被覆する

*歯髄壊死、歯髄腔の石灰化異常(歯髄腔狭窄、歯髄の石灰化、骨の進入、歯髄腔の開大)

*永久歯の形成異常 (白・黄斑、歯冠や歯根の形成不全、歯髄腔狭窄)

    乳歯埋入の63%、脱落73%、脱臼54%以下、歯根破折(整復固定)20% 抜歯57

 

5 予防

どんなところでケガが起きているのか?→危険箇所を減らす

水道蛇口での打撲、噛り、歯がささる・・ビニールホースなどによるカバー

再外傷の予防

体育の授業、部活中のケガ

虐待監視の視点

障害児 :外傷の繰り返し、 いらつきと自傷癖→フェイスガードやマウスガード、ヘルメット

歯科定期検診のすすめ:形成不全やムシ歯は折れやすい、歯並びが悪いとぶつけやすい

“ケガの二次予防のためにも、成人までの定期診査と成長に合わせた調整をうけましょう”

読後感想; 知の追求と闇

過去の功労者、歴史的偉人には、称賛される面とその裏に闇の様に見える事実がともに存在することがまれではない。

 解剖学や歯科医学の先達とされるジョン・ハンターもそのような人の一人として有名である。彼の生き方は数々の書籍に取り上げられてきた。

書籍;「外科医ジョン・ハンターの数奇な生涯」 (河出文庫)ウェンディ・ムーア 著

 の内容紹介

ジョン・ハンター(1728〜1793)は,外科医、解剖学者とされる.彼はドリトル先生ややジキル氏とハイド氏のモデルになった.ジョンとその兄ウィリアムはスコットランド出身でロンドン中心部に外科医学校を開設した。それは後にハンテリアン博物館として残った.ジョンは、解剖用の「死体」を略奪や墓泥棒をする組織を通じて手に入れたと疑われており、そのほか健常者からの歯の移植手術をおこなったことでも知られている。というのも、この時代は子どもや貧窮民の歯を有料で購入して抜歯し、それを歯を失った人が購入して移植を受ける行為が広く行われた時代でもあったためで、ユゴーの「レミゼラブル」の中にも歯の移植は登場する。

他家移植された歯は数年間口腔内で機能したとの記載があるものの、梅毒等感染症の伝染がおきたことから、他科移植の流行は終焉したようである。

 




 




 

外傷歯クリニカルパスと 診査表テンプレート

   歯の外傷で見えたお子さんへの説明と 記録の際にご活用ください。

歯の外傷クリニカルパス

 

  横型・継続診査用 Ver.2                                
  年月日      歯種 自発痛 冷温痛 打診痛 変色 露髄 出血 病的歯周ポケット 根尖部 動揺度 電気診

X線

所見

       
  水平 垂直 圧痛 発赤 腫脹 瘻孔

垂直  
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
外傷・歯内疾患等 初診用 ver.1
    患者名 フリガナ 受診日
症例番号      年     月     日
受傷日時   月    日(  )  AM・PM    :    頃
 
受傷の原因  
他院・他科受診  無 / 有 :
受傷後  年          月          日  後経過
全身状態  
持参薬  
副作用・アレルギー  
体温    . ℃ 体重 kg  
歯周ポケット検査※外傷後1ヵ月前後より測定
備考  
歯種            
自発痛            
冷温痛            
打診痛 水平            
垂直            
歯の変色            
露髄            
出血(歯肉・皮膚・粘膜)            
創部痛            
根尖部 圧痛            
発赤            
腫脹            
瘻孔            
動揺度 水平            
垂直            
電気歯髄診            
X線所見            
その他(       )            
処置内容            
               
               
               

全身麻酔や挿管操作から歯を守る

全身麻酔や挿管操作から歯を守る

 

全身麻酔の際の患者さんへの事前説明書に、「歯が揺れたりかけたり抜けることがあります。」

と書いてあるのを初めて見たときはショックを受けました。全身麻酔や挿管をうけたからといって、歯を損なったり失うことのない日本でありたいものです。

特に将来のある子どものことはなおさら守りたいものです。子どもがマウスガードを使用していれば、これを挿管時に使用することもよいことを、子どもたちに伝えてきました。私の患者さんは、スポーツで複雑骨折をしたときに、私の作ったマウスガードを全身麻酔時に装着したと言っておりました。ただし、急な救急対応など、患者さん側が何も準備していない状況でも、歯をまもれるように、麻酔医側が準備することができる小児用既製品(歯守くん小児用、(株)八光)も作ってきました。]


これは、国立成育医療研究センターの麻酔医などの皆様が利用してきてくれています。より多くの医療者が、歯を犠牲にする必要がないことに気づいてくださるのはうれしいことです。

小児の歯への強い外力は、乳歯未萌出前の歯槽への外力が乳歯や永久歯を傷害することが報じられており、乳歯への外力は永久歯の形成不全や歯根形態異常、萌出障害を生じるリスクがあります。さらに、幼若永久歯へ外力が加わると、歯の外傷に相当するすべてがおきるわけで、その後も歯根形成停止や根尖屈曲、歯髄壊死、歯髄変性のリスクを高めます。

小児の歯は成長発育期にあるため、外力以外に、癌治療などの際に行われる放射線治療も歯や骨の形成を傷害するため、子どもの歯を放射線から防護するためのマウスガード(アテニュエーター)もつくってきました。

成人においても原因不明の歯髄壊死があったばあいに、気管内挿管時などの外力による影響を疑うこともあります。つまり、全年齢にとって、歯を過大な外力から守ることは重要な関係があるのです。

マウスピース作製の年齢の下限についてご質問がありました。下限はありません。出生当日に印象をとり、唇顎口蓋裂児にはホッツ床が適用されておりますのと同様です。また、既製品も3歳~学童期まで使えますので、小児科や麻酔科領域の方々、一般の皆様に今後もお知らせし続けたいと思います。

 

Labo M

小児の歯内療法、外傷と受傷歯の治療と

合併症への対応を教育・研究しています。

 (無料)

L

 

小児の歯内療法、小児の外傷と受傷歯の治療と長期経過観察、合併症への対応

その他、小児歯科学全般に興味のある皆様に、講義や実習(「天然歯根管模型」使用)、治療指導。研究指導などをボランティアで行っております。

 特に研修中の歯科医師や歯科衛生士の皆さんは気兼ねなくご連絡ください。

また、診療上、お悩みの症例がありましたら、ご相談などもお受けしています。

2名以上の希望者がおられましたら、どこでも伺います(交通費だけはご負担ください)。

希望される日や時間帯をいくつかご提示ください。

お問い合わせは以下まで

mmiyashin@outlook.jp